「おもしろかったね!」
 お昼に近づいて、人が多くなったモール内を私と悠馬は並んで歩く。
「るりがあの手の映画で泣くなんてめずらしいこともあるもんだ」
 悠馬がからかうように私を見た。
「な!なんでよ!私だって感動することくらいあるよ。失礼な!」
「知ってるよ。でも、それは動物が出てくるやつとかの話だろ?」
 うっ、正解。
 この手の映画で泣いたのは初めてだった。
「わ、私もちょっとは大人になったってことなんだよ。悪い?」
 悠馬がニヤリと笑った。
「べつに悪いなんて言ってないよ。この前は、オデット姫の気持ちがわかるようになったって言ってたし、ちょっとは女の子らしくなってきたなって思って」
 もう、歳下のくせに本当なまいき。
 私は黙って悠馬をにらむ。
 悠馬は、はははと笑って手を差し出した。
「もうちょっとだけ、女の子らしくしてみる?」
「?」
 どういうこと?
 首を傾げる私の手を悠馬が取った。
「手を、つないで歩いてみよう」
「え!!」
 私はびっくりして思わず手を引っ込めようとするけど、歳下でも男の子の悠馬の力には敵わなかった。
「で、でも…」
「映画でも、最後は手をつないでじゃん。デートではそうするんだよ」
 それは本当の恋人同士の場合でしょ?…とはやっぱり言えなかった。
 悠馬は私の手を引いて歩きだしてしまう。
 小さい頃は、何度も手をつないだけど、それとは比べ物にならないくらいに大きな手、少し乾いた感触に、私の心臓は、痛いくらいにドキドキして飛び出してきそうなくらいだった。
 頭の中で、悠馬と手をつなぐのは別に初めてじゃないって何度も何度も唱えるけど、そのドキドキは全然収まりそうにない。
 まだデートはやっと半分終わったところなのに、もしかしてこの状態のまま最後まで!?なんて思ったら、私、どうにかなってしまいそう…。
 悠馬の方はそんな私はお構いなしにずんずんモールを進み、ゲームセンターの前で立ち止まる。そして、クレーンゲームを指差した。
「るり、またあるよ。バナナん。別のバージョンじゃん!ほしい?」
 私はまだドキドキとする気持ちのまま首を横に振った。