「ねぇ神谷さん、あのこと聞いてきてくれた?」
 ある日の放課後、帰る準備をしていた私は、声をかけられて振り向いた。
 森さんだった。
 森さんの後ろには何人かの女子がいて、森さんと同じように私の答えを待っている。
「なんのこと?」
 私が聞き返すと、森さんは大袈裟にため息をついた。
「王子の彼女のことに決まってるじゃない。弟が王子本人かに聞いてきてって言ったじゃん」
 たしかに森さんは私にそう言った。
 でも私はそれにうんと答えた覚えはない。森さんの知りたい答えを私はすでに知っていて、しかもそれを言うわけにはいかないんだから。
「聞いてないよ、聞くつもりもない。私はそう言ったよね?」
 いつもは言い返さない私が言い返したことに森さんはちょっとおどろいたみたいで、ピンク色の口をへの字に曲げた。
「どうして聞いてきてくれないの?友達の恋を応援できないの?」
「るりが森さんの言うことを聞かないといけない理由はないよね」
 いつのまにか隣に来ていたさっちゃんが答えた。
 森さんが、また?っていうようにしかめっ面をする。
「べつに聞いてくるくらいなんでもないじゃん。なんでそれを嫌がるのかがわかんない。ねぇ神谷さん、私どうしても知りたいの。お願い~!」
 私はなんだか悠馬がかわいそうに思えてきた。女子にモテモテの王子様なんて言われても、こうしつこくプライベートを詮索されたんじゃ、気が休まらないよね。
 私はため息をついて森さんを見た。
「悠馬の彼女が誰かを知って、森さんはどうしたいの?」
「え?どうするって…」
「誰にだって知られたくないことくらいあるよ。あんまり詮索するのは良くないと思う。とにかく私は聞かないから」
 クラス一気が強い森さんにきっぱりと言い返した私に、その場のみんなが驚いている。
 私も本当はちょっと怖い。
 でもどうしても言わなくちゃ。
 いくら好きだからっていう理由でも、誰かの秘密を探るなんてことしていいはずがない。
 森さんは明らかにムッとして、腕を組んだ。そして私をじろりとにらんだ。
「なにそれ、いい子ぶっちゃって。それだけ王子が人気だってことじゃない。それに王子の彼女が誰かを知りたがってるのはべつに私達だけじゃないんだよ。一年の女子だって毎日その話ばかりしてるんだから。王子の彼女が誰なのかを突き止めるのはみんなのためになることなのよ。だから神谷さんが聞いてきてくれないなら、私たちいよいよ他校にも…」
「ダメだよ!!」