「悠馬は自分がどれだけ学校で注目されてるか知らないからそんなこと言うのよ!悠馬のこと知りたくてたまらない女の子はたくさんいるんだから!」
「知らねぇよ、そんなこと!」
 悠馬が大きな声を出す。
 私はびくりと肩を揺らした。そしてそのまま何も言えなくなってしまう。
 しばらくの間、気まずい空気が私達の間に流れた。
 私はこの話をしたことを早くも後悔し始めていた。
 そもそも悠馬は何も悪くはないのに。悠馬が学校で注目されるのは彼のせいじゃないんだから。
 そう、私が知られたくないとかじゃなくて、森さん達が他校の子だとしても絶対につきとめてるって言ってたから、もし悠馬の好きな人が他校にいるとしたら、知られちゃうかもしれないよって、そう言わなくちゃいけない。
 そしたら悠馬もちょっとは危機感を覚えて、なんとかしなくちゃって思うかも。
「あの…悠馬、あのね…」
 でも私がもう一度口を開きかけた時、レッスンバックの中の携帯が鳴った。
 私は慌てて確認をする。お母さんからのメールだった。
 レッスンが長引いたり、居残り練習をしたりはしょっちゅうだけど、それにしても遅いから早く帰って来なさいって書いてある。
「早く帰らないと、おばさんが心配してるんじゃない」
 そう言って、悠馬はそっぽを向いた。小さい頃からそう、悠馬は怒るとそっぽを向いて話を聞いてくれなくなる。
 私はため息をついて立ち上がる。
 そしてそのまま、悠馬の家を後にした。