森さんがふてくされたように言った。
「他校の子だって言ってた」
 よ、よかったぁ…。
 私は安心して息をはいた。さっちゃんがくすくすと笑っている。
 もう、笑いごとじゃないよ、まったく。
 女の子達は、なあんだと言ってがっかりしている。他校の子なら誰も知らないから見に行くわけにいかないもんね。
 でも安心したと同時に私の胸にもやもやとしたものが広がった。
 やっぱり…悠馬の好きな人は他校にいるんじゃない?
 嘘をつく時は全部を嘘にしないで本当のことも少しまぜてらおけばバレにくいっていうのを本で読んだことがある。
 悠馬の場合、"つきあってる人がいる"は本当、"それは他校の子"は嘘、でも"好きな人は他校の子"というのは本当。
 うん、完璧だ。
 私の背中を冷たい汗がつーと伝った。
 悠馬は優しいから、スランプにいる私を放っておけなくて、手を差し伸べてくれた。
 そして今もきっと、私がオデット姫の気持ちを理解できるまでつきあったままでいようとしてくれている。
 でも人気者の彼は、ひっきりなしに告白を受けるから、きっと断るのも一苦労になんだ。
 本当のことを言って、万が一にでもそれが好きな人の耳に入ったら困るから一人一人に慎重に答えているに違いない。
 これって、もうつきあう必要のない幼なじみの私のせいなんじゃない?
 私の胸がしめつけられるように痛んだ。
 ニセモノでもなんでも悠馬とつきあっているというこの状態は、私にとっては居心地がいい。だから心のどこかでずっとこのままがいいなんて思っていた。
 でもやっぱり、そういうわけにはいかないんだ。

「るり、何かあったの?」
 森さんが大騒ぎしていた日の夜、私はいつものように悠馬の家にいた。
 悠馬はいつもとまったく変わらず、学校で健二がバカばっかりやってる話を楽しそうにしている。
 普段なら私もお腹をかかえて笑うんだけど、今夜はどうしてもそんな気分になれなかった。
 どこかうわの空だった私に悠馬は気がついたみたい。首を傾げて、不思議そうに私を見ている。