今日だって、サッカーの練習がない貴重な休みを私のために使ってくれた。
「うーん。それはわかんない。でも私たち幼なじみだから、その私が落ち込んでいるのを見てられなくて、助けてくれようとしたんじゃないかな」
「他に好きな人がいるのに?」
 そうなんだよね。それが本当にわからない。
「もしかして悠馬の好きな人って他校なんじゃないかなぁ。それでもリスクはゼロじゃないけど。悠馬はクラブチームにも入ってるからもしかしたらそこ…には女子はいないか…うーん」
 ぶつぶつと言いながら考えていると、突然私の手をさっちゃんががしりとつかんだ。
「ねえ、るり」
「!?なに?さっちゃん」
「王子の好きな人ってるりなんじゃないの?」
「え?!!」
 私は思わず大きな声をあげてしまう。ガヤガヤとうるさいフードコートでもちょっと目立ってしまうくらいだった。
 私は慌てて声を落とした。
「さっちゃん、何言ってんの!?」
「だってそうじゃなきゃ、つじつまが合わないよ。王子の行動。でも逆にそうだとしたら、納得じゃない?」
 そのさっちゃんの意見に私はなんて答えたらいいのかがまったくわからない。
 そう言われればそうのようにも思えるし、全然納得じゃないような気もする。
「さっきだってさ、わざわざ追いかけてきて、るりの話を聞いてあげてって私に頼んだんだよ?ニセの彼氏がそこまでする?」
「それは、幼なじみだから…」
「私から見たらさ、部活のない日は迎えにきたり、るりの悩みを真剣にきいてくれたりする理由なんてひとつだと思うけど。それに小さい頃はるりを好きだーって言ってたんでしょ」
 でもいくらなんでも、保育園の頃の話は無効だと思う。
 たしかに小さい頃は好き好き言って、まとわりついてきた。今だって好きでいてくれてるのは間違いないだろう。でもそれは、あくまでも小さい頃の好きの延長上にある"好き"じゃないかな。
 それをそのまま口にすると、さっちゃんはうーんとうなった。
「まぁどちらにしても、本人に聞かない限りわからないか」
 そして小さくため息をついて私を見た。
「それで?るりの方はどうなの?少しは恋愛の勉強ができた?王子に恋できそう?」
「えっ…!」
 突然話のほこさきが私にむかって私は真っ赤になってしまう。すぐには答えられなくてうつむいた。
「なになになに?その様子だと何かあったみたいだね」
 さっちゃんが目を輝かせて身を乗り出すように私を見た。
「べつに、何もないけど…。でもちょっとだけ、そんな気分にはなったよ」
「え?どんな?」
「うーん…」
 私は首を傾げて考えた。
「なんていうか…。私、完全に悠馬のこと弟だと思ってたのよね。小さい頃から知ってるし」
 さっちゃんがうんうんとうなずいた。
「でも今日デート…みたいなことをしてて、そうじゃないのかもって思う瞬間もあったんだよね。つまり…」
「つまり…?」
 私は一旦唇をかんでから、えいやっと口を開いた。
「お、弟じゃないのかなぁって…み、みんなが王子様っていうのも、ちょっとだけわかるような気がした」
 さっちゃんが「ふぅん」と言ってニヤニヤした。
「だったらつきあったかいがあったってことだね」
 私はうなずいて、シェイクをズズズーっと飲んだ。
 さっちゃんが頬杖をついてニンマリとした。そしてとんでもないことを言った。
「なら、これで、王子の好きな人がるりだったらめでたしめでたしなんだね」
「えっ…!な、なんでよ!?」
「だって、るりも王子が好き、王子もるりが好きだったら…」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ、なんでそうなるの。私はべつに悠馬が好きってわけじゃないよ。ただ少しだけ、カッコいいかもって思っただけだもん!」
 私は慌てて言い返す。
 さっちゃんってば想像力ありすぎだよ。カッコいいって思っただけで、好きだなんて。そもそも悠馬の好きな人が私だっていうのもなんの根拠もないことなのに…。
「変なこと言わないでよね。もう…」
 私はプリプリとしながら残りのシェイクを飲み干した。でも心の中で、もし本当にさっちゃんの言うとおりだったらって考えて、なんだかふわふわとした気持ちになった。