知らなかった、さっちゃんがそんな風に思ってくれていたなんて。
「だから毎日るりにクリスタルロードを断られるのも何か理由があるはずで、いつかはちゃんと話してくれるだろうって思ってたんだ。それなのに今日ばったり会っちゃって、るりいつもよりおしゃれしてるし、見ちゃいけなかったなって思って、思わず逃げたしちゃったんだ。やな感じだったよね、ごめん」
 ついに私の目から涙があふれた。
 そこまで私のことを考えてくれてたのに、私はただ怖いってだけでバレエのことすら言えなかった。
 すごいなんて言ってもらえる資格私にあるのかな?
 でもとにかくすごくうれしかった。
「さっちゃん、そんな風に言ってくれるなんてうれしいよ。ごめんね。ありがとう…」
 さっちゃんも涙ぐんでうんうんとうなずいている。私たちは今日初めて、本当の友達になれたんだ。
「さっき会った時はどうしようって思ったけど、雨降って地固まるってこういうことをいうんだね」私が言うと、さっちゃんがハンカチを持ったままくすくすと笑った。
「知らない。私現国苦手だもん」

 さっちゃんと無事に仲なおりをした頃、私のケータイに悠馬からのメッセージが届いた。
 自分のことはいいからさっちゃんとゆっくり話し合うようにって。私はそのメッセージにさっちゃんと仲なおりできたことを返信した。
 さっちゃんがその私を意味深な笑みを浮かべて見た。
「なかなかいい男だったよ、王子は」
「え?」
「さっき、私が慌てて帰ろうとしたら追いかけてきて、るりの話を聞いてやってくれって言ったのよ」
 そういえば、悠馬がさっちゃんを連れ戻してくれたんだった。
 あのまま話もせずに別れていたら、きっと明日からは気まずかったに違いない。
「女子同士のいざこざに、首を突っ込むなんて勇気がいるだろうに。見直したよ、カッコいいだけじゃないんだね。今だって、デートの途中だったんでしょ?でも私たちのために、練習があるフリをして帰ってくれた…」
 さっちゃんはそう言ってふふふと笑っている。
 あ、これ、絶対に誤解している。
 私は慌てて口を開いた。
「あのね、さっちゃん。悠馬とは本当になんでもないんだ。今日だってデートだけど、デートじゃないっていうか…」
 さっちゃんが首をかしげた。
 こんな説明じゃ全然わかんないよね。普段よりおしゃれをして二人でいるところを見られたんだもん。
 ちゃんと説明しなきゃ。
 私は大きく深呼吸をしてから、悠馬との今までの経緯を説明した。
「…」
 だいたいの事情を聞いたさっちゃんはむずかしい表情で黙り込んでしまった。
 私はまた少し心配になった。
 オデット姫の気持ちを知りたいからって、初恋もまだなのに彼氏を作ったりして…もしかして、あきれられた?
 でもそうじゃないみたいだった。さっちゃんは私をじーっと見て、口を開いた。
「ねえ、るり。王子はるりのバレエのためにつきあおうって言ったんだよね」
「うん、そうだよ」
「でもそれってさ、王子になんのメリットがあるんだろう?」
 やっぱりそう思うよね。