「それにしても、本当にかわいい店がいっぱいあるよねここ」
私は吹き抜けの天井を見上げて言った。悠馬と来るのも楽しいけど、女の子のお店を見てまわるなら、断然さっちゃんと一緒が楽しいだろうなぁ。
「最近よく一緒にいるあの子とくればいいじゃん」
その言葉に私は口の中で「うん」と言ってうつむいた。
「バレエスタジオだって近いんだから、帰りにちょっと寄るくらいできるんじゃない?」
それはそうだった。
でもそれができないのは、私がバレエのことをさっちゃんに言えていないから。
「さっちゃんには、バレエをやってること言ってないんだ…だから、平日は無理かな」
悠馬が少し言いにくそうに口を開いた。
「それってさ…、るりが学校でメガネをかけていることと関係あるの?」
私の胸がずきんと痛んだ。
六年の時にいじめにあったことは、さすがに悠馬にも言えてない。そもそも、誰にも言ってない。
家での私と学校の私、両方の私を知っている悠馬ならそりゃ、不思議に思うよね。
あまりに違いすぎるもん。
でもなんて答えていいかわからなくて黙り込んだ私に、悠馬がもう一度何かを言いかける。
「るり、俺さ…」
その時、「るり?」と私の背中に呼びかける人がいた。
振り向いた瞬間、私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
さっちゃんだ。
「あ…、さっちゃん」
私が小さな声で呟く。
さっちゃんは固まっている。
私だと思って声をかけたものの、学校での私とあまりに違うことに戸惑っているみたいだった。
「やっぱり…るり…」
さっちゃんが私と向かい合わせにいる悠馬を見る。そして何かに気がついたように体をびくりとさせた。
「お、おじゃまだよね。…それじゃ」
そう言って、そのままくるりと私に背を向けて、フードコートを後にする。いつものさっちゃんとは全然違う反応に私は思わず立ち上がった。
「さっちゃん!!」
でもさっちゃんは私の声には振り返らずに、ずんずんと人ごみに向かってゆく。
私はどうしていいかわからなくなった。
さっちゃんは、学校にいるときとは全然違う格好をして、今まで何度誘っても一緒に行かなかったクリスタルロードに悠馬と来ている私をどう思っただろう。
こんなことなら、もっと早くバレエのことを打ち明けていればよかったと思った。それから六年生の時に私の身に起こったことも。
でももうきっと手遅れだ。
さっちゃんは私に裏切られたような気持ちになったに違いない。私の目にじわりと涙が浮かんだ。
いじめにあってから、初めてできた信頼できる友達だったのに…。
その時、ガタンと椅子を鳴らして悠馬が立ち上がった。
そしてさっちゃんが消えていった方をじっと見つめて、私に言った。
「るりはここで待ってて」
「え?…ゆ、悠馬!?」
悠馬はそのまま早足で人ごみに消えていく。私はあぜんとしてそれを見つめていた。
しばらくして戻ってきた悠馬の隣にはさっちゃんの姿。私は息が止まるほどおどろいた。
悠馬、どうして?
悠馬はさっちゃんを自分が座っていた席に座らせると、「俺三時から練習だから」と言って鞄をつかんで帰っていった。
しばらくは私とさっちゃんの間に気まずい空気が流れる。
でも私は膝に置いた手をぎゅっと握って、心に決めた。
ちゃんとさっちゃんに話をしよう。なにを言ってももう遅いかもしれないけど、せっかく悠馬がチャンスをくれたんだ。正直に、私の気持ちを。
さっちゃんは、紙袋を抱えたまま居心地が悪そうにそわそわとしている。私は意を決して口を開いた。
「さっちゃん、あのね」
さっちゃんは私の言葉にびくりとしてこちらを見る。そんな仕草はいつものさっちゃんじゃない。
やっぱり嫌われちゃったかな。
ずきんと鳴る胸の音をききながら、それでも私は続きを話した。
「さっちゃん、私…さっちゃんに黙っていたことがあるの」
さっちゃんが、首を傾げた。
「あのね…、毎日ここに一緒に来ようって誘ってくれてありがとう。それなのに私…断ってばかりでごめん。私がね、さっちゃんと一緒にここに来られなかったのは…その…。毎日バレエのレッスンに通っているからなんだ」
私はごくりとのどを鳴らした。そして恐る恐る口を開いた。
「バレエを習ってるなんてべつに普通のことをね、なんで言えなかったかっていうとね…。私それが原因で六年の時に、ク、クラスの女子全員に無視されてたことがあるの。だからね、中学でバレエのことを誰かに知られるのが怖かったんだ。ずっと黙って、断り続けて…本当にごめん」
一気に言ってしまって私は小さく息をはいた。
さっちゃんが「そうだったんだ」と呟いた。
私は吹き抜けの天井を見上げて言った。悠馬と来るのも楽しいけど、女の子のお店を見てまわるなら、断然さっちゃんと一緒が楽しいだろうなぁ。
「最近よく一緒にいるあの子とくればいいじゃん」
その言葉に私は口の中で「うん」と言ってうつむいた。
「バレエスタジオだって近いんだから、帰りにちょっと寄るくらいできるんじゃない?」
それはそうだった。
でもそれができないのは、私がバレエのことをさっちゃんに言えていないから。
「さっちゃんには、バレエをやってること言ってないんだ…だから、平日は無理かな」
悠馬が少し言いにくそうに口を開いた。
「それってさ…、るりが学校でメガネをかけていることと関係あるの?」
私の胸がずきんと痛んだ。
六年の時にいじめにあったことは、さすがに悠馬にも言えてない。そもそも、誰にも言ってない。
家での私と学校の私、両方の私を知っている悠馬ならそりゃ、不思議に思うよね。
あまりに違いすぎるもん。
でもなんて答えていいかわからなくて黙り込んだ私に、悠馬がもう一度何かを言いかける。
「るり、俺さ…」
その時、「るり?」と私の背中に呼びかける人がいた。
振り向いた瞬間、私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
さっちゃんだ。
「あ…、さっちゃん」
私が小さな声で呟く。
さっちゃんは固まっている。
私だと思って声をかけたものの、学校での私とあまりに違うことに戸惑っているみたいだった。
「やっぱり…るり…」
さっちゃんが私と向かい合わせにいる悠馬を見る。そして何かに気がついたように体をびくりとさせた。
「お、おじゃまだよね。…それじゃ」
そう言って、そのままくるりと私に背を向けて、フードコートを後にする。いつものさっちゃんとは全然違う反応に私は思わず立ち上がった。
「さっちゃん!!」
でもさっちゃんは私の声には振り返らずに、ずんずんと人ごみに向かってゆく。
私はどうしていいかわからなくなった。
さっちゃんは、学校にいるときとは全然違う格好をして、今まで何度誘っても一緒に行かなかったクリスタルロードに悠馬と来ている私をどう思っただろう。
こんなことなら、もっと早くバレエのことを打ち明けていればよかったと思った。それから六年生の時に私の身に起こったことも。
でももうきっと手遅れだ。
さっちゃんは私に裏切られたような気持ちになったに違いない。私の目にじわりと涙が浮かんだ。
いじめにあってから、初めてできた信頼できる友達だったのに…。
その時、ガタンと椅子を鳴らして悠馬が立ち上がった。
そしてさっちゃんが消えていった方をじっと見つめて、私に言った。
「るりはここで待ってて」
「え?…ゆ、悠馬!?」
悠馬はそのまま早足で人ごみに消えていく。私はあぜんとしてそれを見つめていた。
しばらくして戻ってきた悠馬の隣にはさっちゃんの姿。私は息が止まるほどおどろいた。
悠馬、どうして?
悠馬はさっちゃんを自分が座っていた席に座らせると、「俺三時から練習だから」と言って鞄をつかんで帰っていった。
しばらくは私とさっちゃんの間に気まずい空気が流れる。
でも私は膝に置いた手をぎゅっと握って、心に決めた。
ちゃんとさっちゃんに話をしよう。なにを言ってももう遅いかもしれないけど、せっかく悠馬がチャンスをくれたんだ。正直に、私の気持ちを。
さっちゃんは、紙袋を抱えたまま居心地が悪そうにそわそわとしている。私は意を決して口を開いた。
「さっちゃん、あのね」
さっちゃんは私の言葉にびくりとしてこちらを見る。そんな仕草はいつものさっちゃんじゃない。
やっぱり嫌われちゃったかな。
ずきんと鳴る胸の音をききながら、それでも私は続きを話した。
「さっちゃん、私…さっちゃんに黙っていたことがあるの」
さっちゃんが、首を傾げた。
「あのね…、毎日ここに一緒に来ようって誘ってくれてありがとう。それなのに私…断ってばかりでごめん。私がね、さっちゃんと一緒にここに来られなかったのは…その…。毎日バレエのレッスンに通っているからなんだ」
私はごくりとのどを鳴らした。そして恐る恐る口を開いた。
「バレエを習ってるなんてべつに普通のことをね、なんで言えなかったかっていうとね…。私それが原因で六年の時に、ク、クラスの女子全員に無視されてたことがあるの。だからね、中学でバレエのことを誰かに知られるのが怖かったんだ。ずっと黙って、断り続けて…本当にごめん」
一気に言ってしまって私は小さく息をはいた。
さっちゃんが「そうだったんだ」と呟いた。