好きな人がいるのに、どうして私につきあおうなんて言ったの?
 悠馬に対するその疑問を、結局私は数日たっても本人には聞けなかった。
 なんだか変な気分だった。だっていつもの私ならとっくに聞いているはずなのに。
 聞いてしまって、じゃあやっぱりつきあうのはなしね、なんて言われるのがとっても怖いような気がしたんだ。
 代わりにずるいとは思うけど、弟の健二にそれとなく話をしてみた。もちろん私たちがつきあうことになったって話は隠したままで。
「噂で聞いたんだけど悠馬って好きな人いるの?」
 その私の問いかけに、健二はゲームのコントローラーを置いてぽかんと口を開けた。
「姉ちゃん、…知らないの?」
「知らないよ、悠馬と恋バナなんてしないもん!」
 すると健二ははぁ…とため息をついた。
「私の知ってる人?」
 ちょっとイラついて私が健二に問いかけと、奴はまたため息をついてあきれたように私を見てる。
 …やっぱり健二なんかに聞かなきゃよかった。
「悠馬が姉ちゃんに言ってないのに俺から言うわけにいかないよ」
 たしかにそれはそうだよねと私が納得しかけた時、健二が意地の悪い顔でニヤリと笑った。
「何、姉ちゃん。悠馬のことが気になるの?あいつカッコよくなったもんなぁ」
「ばっ…!ばか!そんなんじゃないよ!」
 でもこれで、悠馬に好きな人がいるってことが本当だということはわかった。
 それなら、ますます私はわからなくなってしまう。いったい悠馬は何を考えているのだろう?
 その悠馬の考えがわかったのはそれから数日後のことだった。
 悠馬とつきあうことになってから、私は毎日のレッスンの後、悠馬の家に寄るようになった。
 実はこれも悠馬からの指令の一つだったんだ。
 学校でも秘密にして放課後も会わなかったらつきあってる意味がないなんて言って。たしかにそれもそうかって思った私は素直にそれに従った。
 それに、今まで誰にも言えなかったバレエの話を相談できるこの時間が実は少し楽しみに感じるようにもなっていた。
 学校では人気者でなんだか遠い存在のように感じる悠馬だけど、夜に会う彼は私のよく知る彼のままだ。
 それがなぜか、うれしかった。
「レッスンはどう?最近は落ち込んでないみたいだけど」
 その日も家に寄った私に悠馬が尋ねた。
「うん。絶好調ってわけじゃないけど、戻りつつあるのを感じる。先生と相談して今は基礎練を中心にしてるんだけど、なんだかうずうずして、踊りたいって思うときもあるくらいだよ」