「そう、その人に誤解されたくないからつきあえないんだってはっきり言ったらしい。それはそれでかっこいいよね」
「でもそれなら、私たちにもチャンスなしかぁ。…夏美どうする?」
 話をふられた森さんは、ピンク色の唇をつぼめて、首をかしけだ。
「それ春の話でしょ、そんなの今も好きかどうかなんてわかんないじゃん」
 さっすが夏美~!という声があがった。
「お前たちうるさいぞ!!自分の席から離れるな!」
 今度は隣のクラスの先生が注意をしにきて、森さん達がぶーぶー文句を言いながらに席へ戻っていく。
「あいかわらず、迷惑な人たちだね」と呟いて、さっちゃんも自分の席に戻って行った。
 私はやりかけの課題をそのままに、動けないくらいにびっくりしてしまっていた。
 …悠馬に好きな人がいる?
 その人に誤解されたくないからつきあえないって?
 でも昨日はそんなこと一言も言っていなかった。学校では秘密にしてほしいっていう私にそれじゃあ気分が出ないじゃないかなんて言っていたくらいなのに。
 森さん達の噂話が本当だとしたらあれはいったい…?
 それに、以前は彼女がいたという話にも胸の中がざわざわとした。
 昨日感じた、悠馬には彼女がいたことがあるのでは?という予感は当たっていたのだ。だから"つきあう"って言葉だけで、動揺してしまった私と違って悠馬はあんなに余裕たっぷりだったんだ。いくら幼なじみを助けるためだからといって簡単に提案にできるくらいに。
 私は誰にも気づかれないようにもう一度窓の外の悠馬を見た。
 モデルをするくらいかわいい子からの告白も断ったっていうのに、なぜ彼は昨日私にあんなことを言ったんだろう…。
 グランドではまた悠馬がゴールを決めて歓声が上がっている。チームメイト達とハイタッチを交わす悠馬の笑顔は小さい頃から何度も見ているはずなのに、なぜか本当に知らない人のように思えて、私の胸がちくりと痛んだ。