パスまわせー!こっちだー!という声がグランドに響く。久しぶりに晴れた青い空の下で、悠馬のクラスの体育の授業が行われている。
 私はそれを教室の窓際の自分の席から、見下ろしていた。
「ひょー、王子様、今日もまぶしいねえ」
 さっちゃんがちょっと大きな声で言うのが聞こえて、私の胸がどきりと鳴った。
「ちょ、ちょっとさっちゃん!」
 私のクラスは自習中。
 ガヤガヤとうるさくて、誰も私たちの会話なんて聞いていないとわかっていても思わず私は周りを見まわした。
 昨夜、思いがけずつきあうことになってから、私と悠馬はいくつかの約束をした。
 一つ目は、"学校では秘密にすること"これは主に私の希望だった。時々悠馬が教室に来るだけであんなに大騒ぎになるんだから、たとえバレエのためであってもつきあってるなんてことが知られたら…、きっとただでは済まないと思ったからだ。
 二つ目は、"もう放課後に迎えに来ないこと"これもやっぱり私の希望だ。悠馬は、しぶしぶうなずいた。
 そのかわりに私は、三つ目の"つきあっている間は悠馬の言う通りにする"ということを約束させられた。私が恋をしているっていう気分になるために必要なことを悠馬が決めるらしい。
 いったいなにを言われるのやらと心配顔の私に、悠馬が出した最初の指令は、"学校ではいつも悠馬を彼氏だと意識して目で追うこと"だった。
 悠馬のことを"健二の友達"あるいは"弟のような幼なじみ"としか見ていない私が、彼にドキドキするためには、まずは家以外での悠馬を知ることがどうしても必要なんだとか言って。
 今さら…。
 正直言って私はそう思った。
 何年悠馬のことを見てると思う?
 学校でだってどこでだって悠馬は祐馬でしょ?って。
 でも約束したんだから仕方がないと思って今実行中ってわけ。
 学年が違うんだから学校で悠馬を見つけるなんていっても、そんなにたくさんの機会があるわけないって思ってたんだけど、意外や意外、これが結構目についた。
 わかっていたつもりだったけど、とにかく悠馬は目立つ。朝にあった全校集会では、きゃあきゃあと女の子たちの声がする方を見てみれば彼がいたし、廊下でもやっぱり同じだった。
 そして体育の授業でも、やっぱり注目を集めてしまっているみたいだった。グランドの向こう側で授業をしている女子は、男子の方ばかり見てさっきから何回も怒られている。
 でもそういう目で見てみれば、なんだかちょっと違って見えてくるから不思議だった。