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繭「あ、そういえばシュークリーム買ってきたの!食べよう!」
朱生のリハビリを終え、一息着いたところでおばさんが冷蔵庫を開けた。
『わー、嬉しい!』
繭「今日、夜勤一緒だった子がオススメしてくれたお店が病院の近くで寄ってきたの。」
差し出されたシュークリームを、お礼を言いながら受け取る。
『おばさん、全然寝てないでしょ?少し休む?』
繭「大丈夫よ。こんなの慣れっこだし。」
でも...と言いかけた所で、おばさんが優しい眼差しを朱生に向けてることに気付く。
どんなに呼びかけても、触れても...
その眼は開かれない。
『...これ、美味しいね。』
繭「!...そう?よかった。」
優しく微笑むおばさんは、私なんかじゃ計り知れないほどの絶望と覚悟を繰り返してきたんだろう。
繭「紫乃ちゃん、最近仕事どう?
高校の養護教諭なんて大変そうよね。」
『んー...色々大変だけど、楽しいよ?
歳がそんなに離れてるわけじゃないからか生徒達も懐いてくれてる気がするし、みんなキラキラしててこっちも元気になれちゃう。』
私たちの母校だしね。
最後にそう付け加え、シュークリームと一緒に用意されたコーヒーに口をつけた。
繭「そう...。」
青葉台高校。
あの校舎には、たくさんの思い出がつまってる。
その思い出が、辛かった時期もあった。
教室、廊下、グラウンド、中庭...
どこに行っても涙が溢れ出す時期もあった。
繭「ねぇ、紫乃ちゃん。」
『んー?
わ...っクリーム垂れてきた!』
申し訳ないが、おばさんの話よりクリームに集中してしまっているとティッシュを渡される。
『あ、ありがとう。』
繭「紫乃ちゃん、ちょっと真剣な話をしたくて。」
何故かテーブルの上のお皿に置かれたおばさんのシュークリームを見ながら、溶けそうだななんて呑気なことを考えた。
『なに...?』
繭「あのね、もう前に進んで欲しいなって思ってるの。」
