ライラックの恋


――...

*side朱生*

―コンコン...

『...はい、』

自室から出るに出れないでいると、小さくノックされる。

気に入らないことがあったからって、部屋に閉じこもるとか...こんなとこが子どもなんだ。

冷静さを取り戻し、クリアになりつつある頭で思う。

蒼「...朱生、入っていい?」

『...うん』


【ケンカしてもいい。
その代わり必ずその日のうちに仲直りする。】

母さんがよく言ってる石川家ルールの1つ。

蒼「...ありがとう、入れてくれて。」

『...ん』

俺が扉を開けると、兄ちゃんは笑顔でそう言った。


『...、』

蒼「朱生、ごめんな。」

『...!』

その言葉に弾かれたように、兄ちゃんを見る。

昔から、ケンカをして先に謝るのは決まって兄ちゃんだった。



ケンカして、仲直りしたいのに...謝りたいのに...って悩んでるくらいなら、その無駄な時間を朱生と何か楽しいことをするために使いたい。
不安とか、後悔とかに時間を費やしたくない。


兄ちゃんは、いつもそう言ってた。


蒼「言い訳っぽくなるかもしれないけど、
朱生のこと子どもだなんて思ってないよ。」

『...っ』

蒼「自分の考えをきちんと言葉に出来る。
努力を怠らないし、自分以外の人に対していつも真摯に向き合える。
...すごいなって思ってる。」


兄ちゃんから発せられる言葉は、
いつも思いやりに満ちてる。

今日はケンカじゃない。
俺が一方的に苛立ちをぶつけただけだ。

それさえも、受け止めてくれる。


『...兄ちゃんは、なんも悪くない。
だから、謝んないで。
ごめんなさい、意地張ってムキになった。』

真っ直ぐ兄ちゃんを見ると、優しく笑ってた。

敵わない。
もっと、成長しないとだめだ。

『...紫乃は?』

蒼「んー...今日は帰るってさっき帰ったよ。」

『そっか...』


姉ちゃんって呼ばないのは、変えない。
だけど傷つけたことは謝らないと。

蒼「だーいじょうぶ!」

少し乱暴に頭を撫でられた。

『...ちゃんと、紫乃にもごめんって言うから。』

蒼「...うん」

頭を撫でられて、
兄ちゃんの笑った顔に安心する。


子ども扱いすんなって言ったのは自分なのに、
こんな時は【石川蒼太】の弟でよかったって思うんだ。