中学二年生の春……私は初めて恋をしました。



きっかけは、学年が変わりクラス替えをした時のこと。
私は中学一年生の後期にこの学校に転校してきた事もあって、クラス替えはとても不安とドキドキで胸がいっぱいでした。



そんな中、足を踏み入れたのは二年六組の教室。知っている人がほとんどいないそんなクラスで私は一人寂しく席に座ったのを今でも覚えています。



担任の先生が発表され、自己紹介をする時にふと私の事を可愛いと言う人がいました。聞き間違いかと思ったけれど、所属している部活が家庭科部だということを言った時もその人は「可愛いと思ったら君、家庭科部なんだ」と私に少し離れた席からそう言葉を投げかけてくれました。



それが、彼の事を知るきっかけでした。
当時の私は、地味で目立たず読書ばかりしてるような、口数の少ない人だったので、そんな事を急に言われても戸惑うことしか出来ませんでした。



それからというもの、彼は私に毎日のように話しかけてきて、私の事を色々と聞いてきました。からかわれている事は分かっていたけれど、一応受け答えだけはして他は特に何も話しませんでした。けれども、彼は私を見ては可愛いとばかり言うので、よく赤面してたのを覚えています。



彼は、いつも男子の中心にいて女子にも男子にも好かれていて、よく笑う明るい人でした。でも、態度はいつも俺様で私に対しては上から目線、それにドSでツンデレな人でした。




私とは正反対のタイプで、初めはこんな人とは合わないと思っていました。でも、彼がいつも話しかけてくれるから私はいつの間にか彼に心を開くようになり、仲良くなっていました。




四月、初めての係決めで彼と同じ係になったこと


五月、茶摘みの時に話した少しの会話


席替えで彼と隣の席になったこと


合唱コンクールのピアノ伴奏をしてみればいいと背中押してくれたこと。でも、結局弾かなかったこと。



そして体育祭の時、偶然にも応援合戦を行う時の体形で彼と隣になり、外で練習していた時の二人だけのアイコンタクト、彼に膝カックンされ「一人で頑張ってんじゃねぇよ」と言われたこと


体育祭の休憩の時、私が疲れて暗かったからか彼が大声で校歌を叫んで私にもそれを求めてきて、「体育祭頑張ろうな!」って満面の笑みで私に向けて言ってくれたこと


その全てが私にとって素敵な思い出であり、恋をしたと気づいたのはその頃でした。




彼の友達からは付き合えばいいのにと言われる程仲良くなっていたけれど、このクラスになって出来た女友達から衝撃の事実を知りました。



それは、私の友達を過去に虐めていたということです。私はその時、何かが壊れたような気がしました。そんな事するような人には全く見えなかったのに、過去では友達を傷つけていた……その事実がその時の私にはどうしても受け止める事が出来ませんでした。



友達からはもう関わらない方がいいと言われたけれど、好きになった感情はどうしても捨てられませんでした。



その事実を知ってからも、彼は自分の過去を知られているとは知らずに私に話しかけてくれました。私にとってはすごく嬉しいことでした。だけど、友達が言っていたことが頭によぎり、心の底から笑って話す事が出来なくなりました。彼も友達も私は失いたくなかったのです。



それから数日が経ち、私は彼と喧嘩をしました。それは、人の顔を見て私が笑うからです。私は、恥ずかしくなると笑って誤魔化す癖があるのでそれが彼には人の顔を見て笑っていると思ったのでしょう。それから彼と私の仲は悪くなっていきました。



その後、席替えがあり今度は彼と一番クラスで仲良かった友達と隣の席になりました。その人と私が話している姿を彼が見ていて、目が合ったけれど不機嫌のままそっぽを向かれる日々が何日か続きました。



私は反省して、笑わなくなっていたのですが何日か経ったこともあり彼から仲直りをしてくれました。その時に「笑顔が似合うから笑ってていい」って言われて嬉しかったのは今でも覚えています。


ある日の体育の時間、バスケをやっている時私にボールが回ってきて味方が周りに誰も居なくてあたふたしていた時、かれから抱き締められました。あの時は突然の出来事で一瞬何が起きたのか分からなかったけれど、体育が終わった後に自覚し、私は彼から逃げるように一人で赤面のまま教室にダッシュで帰ったのを覚えています。



二年生も終わる頃、私は彼に階段で告白されました。冗談だというので、少しでも嬉しくなった自分が馬鹿らしくなり教室に戻りました。その後も教室で告白されましたが、階段で冗談だと言われた事のショックが大きすぎて苦笑いしか出来ませんでした。



三年生になり、クラスが変わって彼とは別々のクラスになりました。それでも、隣のクラスだったのでちょくちょく廊下ですれ違っていて、たまに話していました。



それからというもの、私は二年生の頃彼が私に絡んできた理由を知ってしまったのです。
それは、私を虐めてやろうと思い、声をかけたと言う内容でした。その時の絶望感は今でも忘れられません。今までのあの彼の優しさは何だったんだろうとすごく辛くて悲しくなりました。





それを知ってから、彼に話しかけられても冷たく接するようになりました。彼も私が何に対してそんなに怒っているのかを把握していたようだけれど、それでも話しかけてきました。



冷たく接していながらも、私は彼に対しての好意はまだ残っていました。「誤解している」と言われ、何が誤解なのか当時の私にはよく分かりませんでしたが、前のように話したいという彼の意見に私は心動かされ、結局普通通りの関係に戻りました。




しかし、何も進展しないまま私は卒業式を迎えてしまいました。この思いを、最後に彼に届けたいと思い、夜遅くまで書いた手紙をいつ彼に渡そうかずっと心の中で思っていました……けれども、その手紙は彼に届くことなく卒業式は終わってしまいました。



……先を越されてしまったのです。彼に手紙を渡そうと一歩踏み出そうとした時、彼に告白している女子がいました。遠くにいたので全部は聞き取れなかったけれど、彼とその子が付き合うことになったということは彼の様子とその女子の様子を見てすぐわかりました。



この恋が良かったのか悪かったのかは、今でも分かりません。でも、どちらにせよ、あの頃の私にとってそれはとても大切な思い出です。それがあったからこそ、今の変われた自分がいます。


彼の、あの私に対して言った好きは本物だったということを卒業してから知りましたが、結局はお互い過去のこととして結ばれないままその恋は終わりました。


終わり方は切なかったけれど、その彼に対しての好意があった事の喜びは変わりません。ありがとうと言いたい程、彼は私にとって大事な人だった事を一生忘れないと思います。



ずっと君が好きでした。