プシュ…
プシュ…
「カンパーイ!」
窓際で夜空を見ながら
ビールを開けた
冷蔵庫にビールを取りに行って
頭を冷した
さっきイトに何しようとした?
酔うほど飲んでないはずなのに…
さっきのことを忘れようと
またビールを飲んだ
「おいしーね、リョーちゃん」
「イト、なんかいいことあった?」
「ん?なんで?」
「なんか、機嫌よさそうだから…」
「んー…なんか…嬉しくて…」
意味深な言い方
さっきの人と?
深く聞けない
「そーだ、イト、テーマパーク行った?
行きたがってたじゃん」
オレ、遠回しに探ってる
「行ってなよ
一緒に行く人いないし…」
「友達とかは?」
友達とか…
さっきの上司とは?
気になって仕方ないのに
すぐに答えを聞くのがこわかった
「友達は、みんな彼氏と行ってる」
「…イトは?…いないの?」
ドキン…
自分が聞いたくせに
聞いたら胸が鈍く鳴った
「うん、いないよ」
ホントに?
「さっきの、会社の人とか…
誘ったりしないの?」
「うん、上司だから…」
「へー…」
ホントにそれだけの関係?
「食事にはよく誘ってもらってるけど
さすがにテーマパークは一緒に行かないよ」
「好きじゃないの?あの人のこと…
…
前、誘われてた人、あの人?」
「うん…
…
でも、結婚してる人だから…」
「…え?…どーゆー意味?」
「井上さん、結婚してるんだよ
…
奥さんのいる人だから…」
イトの言葉を理解するのに
時間がかかった
「…イト、不倫?」
「…
昨日ね
赤ちゃんが産まれたんだって
ずっとできなくて
やっとできたんだって
…
リョーちゃんと同じ歳なんだけど
私が入社した時はもぉ結婚してて…
…
リョーちゃんみたいに優しくて
リョーちゃんみたいにおもしろくて
リョーちゃんみたいにカッコよくて
1番尊敬する上司」
イトは、オレの問いには答えなかった
イト、不倫してるの?
「なんで?イト…
…
結婚しるってわかってて…」
「リョーちゃんみたいに
いつも心配してくれるの
…
私の話を聞いてくれて…」
「そんなの、別にその人じゃなくても…」
「リョーちゃんと違って
…
近くにいたから…
…
ただ、それだけだよ」
イト…
ガタン!
「あ!リョーちゃん!」
床に置いてたビールの缶が倒れて
ビールが溢れた
「ごめん…オレ拭くから…」
オレ、酔ってる?
いや、動揺してる
「リョーちゃん、酔ってるの?」
「うん、そーかも…
…
イト、それ飲んだら帰る?
もぉ遅いし…
タクシー捕まるところまで送るよ」
自分の気持ちを整理したかった
「泊まっちゃダメなの?
リョーちゃんも明日休みなんでしょ」
「でも、今日はダメ…」
今、近くにいたら
オレ
また間違うかも
床を拭きながら考えた
リョーちゃんと違って
近くにいたから…
ただそれだけだよ
イトの言葉が
胸に刺さった
ただそれだけ
今は近くにいるのに
自ら望んでイトの近くに来たのに
また遠ざけようとしてる
「ママに聞いて、いいって言ったらいい?」
「んー…」
「じゃあ、聞いてみるね!」
イト
ずっと寂しかった?
いつもひとりで星を見てた?
それとも
あの人と?
やっぱり
遅かったのかも…
オレが近くにいたら
なんか違ってた?



