ロミオは、愛を奏でる。


「それより
廣永、さっきから腕時計気にしてるけど
時間、大丈夫?
ホントは予定あったんじゃない?」



「あ…すみません
コレ、大切な人からもらった腕時計なんです」



無意識にリョーちゃんからもらった

腕時計を見てた



「へー…
大切な人って…?
誰かの形見とか?」



「形見とかじゃないですけど…

好きな人、です

大学の入学祝いにもらいました
それから、ずっとつけてます」



「廣永、彼氏いるんだ」



「いないですよ
彼氏とかじゃなくて…」



「じゃあ、彼氏になる予定の人か」



「予定もないです」



なのにずっと大切につけてるなんて

バカみたい



恥ずかしくなって腕時計を隠した



「本気で好きなんだな…その人のこと」



私の様子を見た井上さんが言った


バカみたいって思わないのかな?



「はい…」



「見せて…腕時計」



井上さんが私の手を掴んだ



リョーちゃんみたいに

大きくて優しい手



「その人もさ
廣永に何かしらの気持ち込めて
この腕時計プレゼントしたんじゃない?」



「え?」



「聞いたらいいじゃん」



聞けない

どんな気持ちかって…



隣でアクセサリーを選んでるカップルを

羨ましいと思ったのを思い出した



きっとリョーちゃんは

そんな気持ちない



「たぶん、ただのお祝いで…
そぉ言われるのが、こわいから…

聞けないです」



井上さんがおしぼりを差し出してくれた



リョーちゃんのことを話してたら

涙が出てた



「昨日、その人と、何かあったの?」



「何か、って…

何もないです…

ないから、辛いんです」



何もないから

私は今

井上さんの前で泣いてます



昨日

リョーちゃんは

私の足を優しく掴んでくれたのに



今日

リョーちゃんは

遠くに行っちゃった



井上さんの方が

ずっと近くにいてくれて

いつも私を見ててくれる



それはたぶん

私の上司だからで

きっとリョーちゃんも

会社の後輩が困ってたら

相談にのってあげたりしてるはず



「それは、オレじゃ解決できないね
頼りない上司で、ごめんね…」



井上さんがビールを飲みながら言った



ただ聞いてほしかった

私がどれくらいリョーちゃんを好きか



ホントは

リョーちゃんに伝えなきゃ

意味ないのに…



「こんな話、聞いてもらって
スミマセンでした」



初めて言った

私がリョーちゃんを好きな気持ち



「大好きなんだね…その人のこと」



井上さんはバカにしなかった



「はい…」



誰かにわかってほしかった

私がどれくらいリョーちゃんを好きか



ただ

それだけでよかった