・
・【リュート】
・
「リュートさん! リュートさん!」
さっき周りにいた人の声が聞こえてきた。
「分かったよ、もう行くからそんな引っ張るなよ、ブラックサンダーで痺れさすぞ」
妙に若い声と急なブラックサンダー。
駄菓子のブラックサンダーを持ってきてくれたのかな? まあブラックサンダーは痺れるほど旨いからなぁ、とか思っていると、目の前に青い髪の毛サラサラで、顔のパーツが何でもデカく、舞台映えする2.5次元俳優みたいなイケメンがやって来た。
高身長でスタイル抜群、足が長くて、顔が小さい、存在感はあるのに、どこか憂いを帯びている。
いや憂いを帯びているのはイヤイヤ連れて来られたみたいな感じだからか。
というかもしかすると、この青年みたいな男性がそのリュートさんって、人……?
嘘っ! 正直長老みたいな、もはや仙人みたいな人を想像していたのに、こんな若いイケメンなんてっ!
何だか漫画から飛び出てきたような男性にドギマギしていると、
「オマエが記憶喪失の女か……変な恰好してるな、立てるならベッドから降りて全身見せろ」
何か口調がぶっきらぼうだな、でも決して悪くないな、イケメンだから、と思いながら私はベッドから降りて、その場に立った。
するとリュートさんという人は私の全身をジロジロ見ながら、
「どこの国でもないな……」
と呟いたので、
「日本です」
と返答してみると、リュートさんは後ろ頭をボリボリ掻きながら、
「二ホン……聞いたことないな……」
日本語で何を言っているんだと思ったけども、確かにリュートさんは日本人といった感じはしない。
瞳は深い青い色でまるで深海、鼻もスッと綺麗に通っていて、アジア人のような窪みは無い。
というかそもそもアジア人には見えない、でも喋っている言葉は明らかに日本語だ。
一体これはどういった現象なんだろうと思ったその時、ふと浮かんだ言葉。
それは
「異世界転移!」
つい口から出てしまった言葉。
その言葉にダンディな男性はポカンとしているが、リュートさんのほうは「あぁ~~~~」と何か心当たりがあるような雰囲気。
私はリュートさんへ、
「何か分かりますか!」
と叫ぶと、リュートさんは口のあたりを触りながら、
「聞いたことないわけではない。時折、別の世界から人間がやって来るという現象はまあ無いこと無い」
「じゃあそれです! 私は地球の日本にいました! 大型トラックに轢かれて死んだと思ったら、気付いたらここにいて!」
リュートさんは困った表情を浮かべながら、
「まあ、俺自身、直接異世界転移した人間と出会ったことあるわけじゃないから全然経験は無いんだけども、話に聞いたまんまの意味分からんこと言うな、こういう人は……」
というか若干引いているような感じだった。
いや引かれても、轢かれたのにさらに引かれるなんて、どうせなら私に惹かれてよ、イケメンだし。
いやそんな言葉遊びはどうでも良くて。
何が何やらといった表情のダンディな男性に、リュートさんは、
「とにかくコイツは赤子みたいなもんで何もこの世界のことを知らない。全部教えてやってくれ。それじゃあ」
そう言ってその場を去ろうとしたので、私は慌てながら、
「待って!」
と声を荒らげると、リュートさんは振り返りもせず、こう言った。
「俺は忙しいんだ。話を聞くだけならヒマンさんにしてくれ」
ドアを開けて外に出て行ったリュートさん。
そんな塩対応、マジの2.5次元俳優みたいだなと思った。まあ私の好きな2.5次元俳優が塩対応なだけだけども。
というかこのダンディな男性、ヒマンさんと言うんだ。
あんな痩せているのに肥満って。
そもそもこの村の人たち、みんな痩せているなぁ。
肥満ゼロの村でヒマンって、何か風刺みたいだな。
そんなことを考えていると、ヒマンさんが、
「まあとりあえず、ベッドに腰掛けて下さい」
と言ったので、私は促されるままベッドに座った。
改めて座った時に気付いたんだけども、このベッド、板に布を敷いているだけのベッドでめちゃくちゃ堅かった。
こんなところで寝ていたら体が痛くなっちゃうだろ、と思いつつも、まあ座る分にはこれでいいので、座っていると、
「何から話せばいいのやら……何か聞きたいことはありますか?」
聞きたいこと……もしここが、漫画などにある異世界ならば聞きたいことは一つ。
それは無論、食べ物だ。
あのマンモスの肉にがっつくみたいなことがしたい。
だから
「ご飯って美味しいですか? というかどんなモノ食べますか?」
と自分で言ったところで、脳裏をかすめたさっき聞いた言葉。
あれ? ここが異世界なら”ブラックサンダー”って何? 駄菓子のブラックサンダーじゃないの?
とか考えていると、ヒマンさんが言いづらそうにこう言った。
「食べ物か……まず最初に食べ物ですか……それはですね……」
何だか一気に不安になってきた。
この違和感は的中するなと願ったが、
「この村に食べ物なんてほとんど無いのです……君に出せる食べ物もあるかどうか……」
最初に周りの人たちが言い合っていたことを思い出す。
『これ以上人が増えても無いぞ』は……食べ物のことか……じゃ! じゃあ!
「ブラックサンダーは駄菓子じゃないんですか! えっと! あの! お菓子じゃないんですかっ!」
「お菓子なんて高貴なモノはこの村には無いですよ。それにリュートさんの言っていたブラックサンダーは雷の魔法です」
「魔法っ? 魔法はあるんですかっ!」
私は何だか心が弾んでしまった。
いや食べ物が無いわけだから、もっと気持ちが沈んだほうがいいような気もするんだけども、漫画好き女子としてはやっぱり魔法は別腹だ。
魔法があれば飯何杯も食べられるぐらいの心持ちだ。
私は多分目を輝かせながら、ヒマンさんに魔法があるかどうか聞くと、
「魔法の存在は知っているが、自分は使えないみたいなことですか?」
「そうです! その通りです!」
「それならば、魔法について喋ることにしましょう。この世界の基本ですからね、魔法は」
そして私はヒマンさんから魔法の基礎を学ばせてもらった。
まあ属性があったりとか、移動手段はほとんど魔法の力で動いているとか、要約すると電気や科学の代わりに魔法って感じ。
さらにその魔法の中に一つ、私は気になる魔法があった。
それは魂が宿っていないモノを出現させる魔法だ。
自らの意志で動いている生物以外のモノを出現させるという、具現化魔法というモノ。
実際は魔力が高くて熟練者であれば、動いている生物も出現させることができるらしいが、基本的には動いていない”モノ”を具現化する魔法らしい。
この魔法があれば、食べ物は勿論、料理も出現させることができるのでは、と思い、ヒマンさんに使ってもらおうとそう言うと、
「板や釘なら具現化できますが、なんせ料理はほとんど食べたことないから表現できないんです。食べ物も同様で。そもそもその具現化したいモノへの理解度が高くなければ出現させることはできません。例えば自分で作ってみたり、自分で経験したり、そういったことを行なわないと無理なんです」
それって、つまり……!
「私が具現化魔法を使えるようになれば、料理が出現できる……」
と呟いた刹那、ヒマンさんの目の色が変わった。
ヒマンさんはガリガリのほそほそ人間とは思えない速度で、玄関を飛び出し、大声で叫んだ。
「リュートさん! この人に具現化魔法を使わせて下さい! もしかしたら食べ物を出すかもしれません!」
私はその言葉から、本当に食事に関してひっ迫していることが分かった。
なので、私も急いで外に出て、
「リュートさん! 何か魔法使わせる魔法みたいなことあるんだったら私に具現化魔法を使わせて下さい!」
と叫ぶとヒマンさんが頷きながら、
「あぁ、リュートさんは対象者に魔力を付与して、魔法を使わせる魔法が使えるんです」
それならばと思って、私も、勿論、ヒマンさんも大きな声でリュートさんを呼び続けると、
「うるさい! うるさい! 聞こえてる!」
という声と共にリュートさんがまるで風に乗っているかのような速度で飛んできた。
リュートさんは地面に足を付けると、こう言った。
「で? 食べ物を具現化できるって? やれんならやってみろよ、まあ無理だと思うけどな」
何だか挑戦的に言い切ったリュートさん。
多分そっちの経験上、今までは無理だったんだろうけども、私の食への理解力なら絶対に料理を具現化できるはず!
・【リュート】
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「リュートさん! リュートさん!」
さっき周りにいた人の声が聞こえてきた。
「分かったよ、もう行くからそんな引っ張るなよ、ブラックサンダーで痺れさすぞ」
妙に若い声と急なブラックサンダー。
駄菓子のブラックサンダーを持ってきてくれたのかな? まあブラックサンダーは痺れるほど旨いからなぁ、とか思っていると、目の前に青い髪の毛サラサラで、顔のパーツが何でもデカく、舞台映えする2.5次元俳優みたいなイケメンがやって来た。
高身長でスタイル抜群、足が長くて、顔が小さい、存在感はあるのに、どこか憂いを帯びている。
いや憂いを帯びているのはイヤイヤ連れて来られたみたいな感じだからか。
というかもしかすると、この青年みたいな男性がそのリュートさんって、人……?
嘘っ! 正直長老みたいな、もはや仙人みたいな人を想像していたのに、こんな若いイケメンなんてっ!
何だか漫画から飛び出てきたような男性にドギマギしていると、
「オマエが記憶喪失の女か……変な恰好してるな、立てるならベッドから降りて全身見せろ」
何か口調がぶっきらぼうだな、でも決して悪くないな、イケメンだから、と思いながら私はベッドから降りて、その場に立った。
するとリュートさんという人は私の全身をジロジロ見ながら、
「どこの国でもないな……」
と呟いたので、
「日本です」
と返答してみると、リュートさんは後ろ頭をボリボリ掻きながら、
「二ホン……聞いたことないな……」
日本語で何を言っているんだと思ったけども、確かにリュートさんは日本人といった感じはしない。
瞳は深い青い色でまるで深海、鼻もスッと綺麗に通っていて、アジア人のような窪みは無い。
というかそもそもアジア人には見えない、でも喋っている言葉は明らかに日本語だ。
一体これはどういった現象なんだろうと思ったその時、ふと浮かんだ言葉。
それは
「異世界転移!」
つい口から出てしまった言葉。
その言葉にダンディな男性はポカンとしているが、リュートさんのほうは「あぁ~~~~」と何か心当たりがあるような雰囲気。
私はリュートさんへ、
「何か分かりますか!」
と叫ぶと、リュートさんは口のあたりを触りながら、
「聞いたことないわけではない。時折、別の世界から人間がやって来るという現象はまあ無いこと無い」
「じゃあそれです! 私は地球の日本にいました! 大型トラックに轢かれて死んだと思ったら、気付いたらここにいて!」
リュートさんは困った表情を浮かべながら、
「まあ、俺自身、直接異世界転移した人間と出会ったことあるわけじゃないから全然経験は無いんだけども、話に聞いたまんまの意味分からんこと言うな、こういう人は……」
というか若干引いているような感じだった。
いや引かれても、轢かれたのにさらに引かれるなんて、どうせなら私に惹かれてよ、イケメンだし。
いやそんな言葉遊びはどうでも良くて。
何が何やらといった表情のダンディな男性に、リュートさんは、
「とにかくコイツは赤子みたいなもんで何もこの世界のことを知らない。全部教えてやってくれ。それじゃあ」
そう言ってその場を去ろうとしたので、私は慌てながら、
「待って!」
と声を荒らげると、リュートさんは振り返りもせず、こう言った。
「俺は忙しいんだ。話を聞くだけならヒマンさんにしてくれ」
ドアを開けて外に出て行ったリュートさん。
そんな塩対応、マジの2.5次元俳優みたいだなと思った。まあ私の好きな2.5次元俳優が塩対応なだけだけども。
というかこのダンディな男性、ヒマンさんと言うんだ。
あんな痩せているのに肥満って。
そもそもこの村の人たち、みんな痩せているなぁ。
肥満ゼロの村でヒマンって、何か風刺みたいだな。
そんなことを考えていると、ヒマンさんが、
「まあとりあえず、ベッドに腰掛けて下さい」
と言ったので、私は促されるままベッドに座った。
改めて座った時に気付いたんだけども、このベッド、板に布を敷いているだけのベッドでめちゃくちゃ堅かった。
こんなところで寝ていたら体が痛くなっちゃうだろ、と思いつつも、まあ座る分にはこれでいいので、座っていると、
「何から話せばいいのやら……何か聞きたいことはありますか?」
聞きたいこと……もしここが、漫画などにある異世界ならば聞きたいことは一つ。
それは無論、食べ物だ。
あのマンモスの肉にがっつくみたいなことがしたい。
だから
「ご飯って美味しいですか? というかどんなモノ食べますか?」
と自分で言ったところで、脳裏をかすめたさっき聞いた言葉。
あれ? ここが異世界なら”ブラックサンダー”って何? 駄菓子のブラックサンダーじゃないの?
とか考えていると、ヒマンさんが言いづらそうにこう言った。
「食べ物か……まず最初に食べ物ですか……それはですね……」
何だか一気に不安になってきた。
この違和感は的中するなと願ったが、
「この村に食べ物なんてほとんど無いのです……君に出せる食べ物もあるかどうか……」
最初に周りの人たちが言い合っていたことを思い出す。
『これ以上人が増えても無いぞ』は……食べ物のことか……じゃ! じゃあ!
「ブラックサンダーは駄菓子じゃないんですか! えっと! あの! お菓子じゃないんですかっ!」
「お菓子なんて高貴なモノはこの村には無いですよ。それにリュートさんの言っていたブラックサンダーは雷の魔法です」
「魔法っ? 魔法はあるんですかっ!」
私は何だか心が弾んでしまった。
いや食べ物が無いわけだから、もっと気持ちが沈んだほうがいいような気もするんだけども、漫画好き女子としてはやっぱり魔法は別腹だ。
魔法があれば飯何杯も食べられるぐらいの心持ちだ。
私は多分目を輝かせながら、ヒマンさんに魔法があるかどうか聞くと、
「魔法の存在は知っているが、自分は使えないみたいなことですか?」
「そうです! その通りです!」
「それならば、魔法について喋ることにしましょう。この世界の基本ですからね、魔法は」
そして私はヒマンさんから魔法の基礎を学ばせてもらった。
まあ属性があったりとか、移動手段はほとんど魔法の力で動いているとか、要約すると電気や科学の代わりに魔法って感じ。
さらにその魔法の中に一つ、私は気になる魔法があった。
それは魂が宿っていないモノを出現させる魔法だ。
自らの意志で動いている生物以外のモノを出現させるという、具現化魔法というモノ。
実際は魔力が高くて熟練者であれば、動いている生物も出現させることができるらしいが、基本的には動いていない”モノ”を具現化する魔法らしい。
この魔法があれば、食べ物は勿論、料理も出現させることができるのでは、と思い、ヒマンさんに使ってもらおうとそう言うと、
「板や釘なら具現化できますが、なんせ料理はほとんど食べたことないから表現できないんです。食べ物も同様で。そもそもその具現化したいモノへの理解度が高くなければ出現させることはできません。例えば自分で作ってみたり、自分で経験したり、そういったことを行なわないと無理なんです」
それって、つまり……!
「私が具現化魔法を使えるようになれば、料理が出現できる……」
と呟いた刹那、ヒマンさんの目の色が変わった。
ヒマンさんはガリガリのほそほそ人間とは思えない速度で、玄関を飛び出し、大声で叫んだ。
「リュートさん! この人に具現化魔法を使わせて下さい! もしかしたら食べ物を出すかもしれません!」
私はその言葉から、本当に食事に関してひっ迫していることが分かった。
なので、私も急いで外に出て、
「リュートさん! 何か魔法使わせる魔法みたいなことあるんだったら私に具現化魔法を使わせて下さい!」
と叫ぶとヒマンさんが頷きながら、
「あぁ、リュートさんは対象者に魔力を付与して、魔法を使わせる魔法が使えるんです」
それならばと思って、私も、勿論、ヒマンさんも大きな声でリュートさんを呼び続けると、
「うるさい! うるさい! 聞こえてる!」
という声と共にリュートさんがまるで風に乗っているかのような速度で飛んできた。
リュートさんは地面に足を付けると、こう言った。
「で? 食べ物を具現化できるって? やれんならやってみろよ、まあ無理だと思うけどな」
何だか挑戦的に言い切ったリュートさん。
多分そっちの経験上、今までは無理だったんだろうけども、私の食への理解力なら絶対に料理を具現化できるはず!