「……そっか……辛かったんだね」

「……」

先輩の方をチラリと見ると、先輩は僕が話す前と変わらない笑顔を浮かべていた。



あれから数か月後の夜。先輩と仲良くなった僕は、静かな部屋で1人椅子に座っていた。

「……」

何もする気になれなくて、僕は何をする訳でもなくぼんやりと頬杖をつく。

「……」

泣きたいほど悲しくて苦しいのに、一滴も涙が零れない。

……先輩の前では、泣けたのにな……。

僕は初めて先輩に会った時の日のことを思い出して、ふぅと息を吐いた。



「おはよう、玲央」

「おはようございます」

登校中、たまたま会った先輩に挨拶をすると、先輩は「一緒に行こう」と僕の隣に並んだ。

最近、先輩の隣が居心地悪く感じるんだ。

1人になりたい……楽になりたい。でも、そんなことは誰にも言えなくて。

「……玲央、1人で抱え込まないで」

「え……?」

「僕は、玲央を救いたい。玲央が何で悩んでいるのか、僕には分からない……玲央は、今まで1人で頑張った……だから、もう我慢しなくていいんだよ」

先輩は、そう言って僕を抱き締める。

「……僕には、玲央が必要なんだ……だから、だから……」

いなくならないで、そう先輩は弱々しい声で言ってから僕を見つめた。

……こんな僕を、先輩は必要としてくれるの……?

僕の目から涙が零れる。僕は「……はい」と微笑んでみせた。