…グレープフルーツを見るたびに思い出す…

初めて同じクラスになったのは小学校三年生の時。クラス替えしたての新しいクラスで出会った。私は仲良くなれば話すけど初対面の人には人見知りがひどいいわゆる内弁慶ってやつで、その新しいクラスで友達を作れずにいた。みんなは初日からどんどん仲良くなっていくのに1日経ってもまだ誰とも話せていない。どうしよう…そう思って俯いていた時、頭の上から明るい声がかかってきた。「みんなで遊びにいこーぜ!」
その声が陽太だった。初日からほとんどのクラスメイトと仲良しになっていて既にクラスの人気者となっていた、そんな人だった。声をかけてもらえたことが嬉しくて人見知りながらも「うん、いく。」と返事をした。遊びに誘ってもらったことでクラスの子と話すきっかけができ、みんなと仲良くなることができた。
その日以来、近くにいれば陽太と話すようになっていた。出席番号が1つ違いということもあって、かけっこの計測や健康診断の時にも話す機会は多くあった。話せば話すほど陽太は面白い人で私と沢山の共通点があった。
嫌いな食べ物はグレープフルーツ、左利きで、運動するのが好きで得意。他にも共通点が見つかっていくごとに親近感が湧き、どんどん仲良くなっていった。
 そんなある日。学校のクラブ活動があった。好きなクラブを選んで入るのだが、私たちは偶然にも同じバドミントンクラブだった。そこで好きな人とペアを作って練習する時間が来たのだ。ほとんどの子は仲良しの女の子と一緒にペアになっていったが、私はバドミントンをやりたい一心だけでクラブを決めたため、女友達と同じクラブではなかった。そのためペアになろうと声をかけられる友達は誰一人いない。周りはどんどんペアを決めていく。どうしよう…そんな時またしても助けてくれたのは陽太だった。「一緒にやろー!」。陽太は既に友達とペアを組んでいたのにその友達を他の子と組ませてまで私のところに来てペアになってくれた。その優しさが嬉しかった。今考えればその時に友達という感情以上のものをかんじて、好きになったんだと思う。私にとっての初恋だった。私のことを好きなんじゃないか?と思うことは日々多くあった。よく話しかけてくれるしペア学習なども一緒にしてくれる。でもこれは私が特別なわけではない。陽太は誰にでも優しいのだ。男女関係なく優しくて明るく話すものだから、陽太を好きな女子は私以外にもたくさんいた。だからこそ楽しそうに女子と話してると嫉妬したり、話しかけてもらえてすごく嬉しくなったりという日を毎日のように繰り返していた。
そんな毎日を過ごしながら、五年生のクラス替え、中学生になってから毎年あったクラス替えも全て同じクラスになった。奇跡だと毎年のように思った。神様にあれほどお礼を言ったのは初めてという勢いで喜んだ。私は新しいクラスになればその度に人見知りを発動する。でもその度に陽太は私のところまできて「また同じクラスだねーよろしく」なんて言いながら私が自然とほかの子とも話しやすいような空気を作ってくれた。お陰で新しい友達はいつの年もすぐに作れた。陽太のことが本当に好きだった。同じクラスである年が長くなればなるほどどんどん好きになっていった。陽太のことを好きになる女子は相変わらずたくさんいたが、中学生になってからは友達以上恋人未満といった関係なり、今までよりも仲良くなっていった。LINEをすれば2時間以上会話が続き、学校でも席替えで近くになると授業が始まるギリギリまでずっと喋っていたりした。
告白したい。いつからか、そう思うようになっていた。でも今の関係を壊すのが怖くて中々出来なかった。でも中学三年生の9月、とうとう長年の想いを経て告白した。
「私は陽太が好きです。」
シンプルな一言。震える声で言った。
「ほんと?俺も美沙が好きだよ」
返ってきた言葉。最初は信じられなくて何度も「嘘じゃないよね?!」と確認したけど本当だとわかって私は思わず泣いた。嬉しすぎる返事だった。

でも、告白するタイミングが悪かったと今なら思う。
付き合ってから私たちはほとんど会話しなかった。受験を目前に控えて勉強で忙しかったのもあるが、お互いに7年間同じクラスの仲。友達でいた期間が長すぎて付き合ってると意識してしまうと話しかけるのも恥ずかしくて気まずくてお互いになんとなく避けてしまっていた。学校で毎日会うのにお互いが避け合う。そんな日が何ヶ月も続いてしまった。話したいのに。好きだってもっと言いたいのに。長年の片想いがやっと実った私にとってやりたいことはたくさんありすぎるほどあったが、どうしていいかわからなくて話しかけることは出来ずじまいだった。
そして私たちはとうとう別れた。桜が芽吹く卒業式の出来事だった。周りはみんな別れを惜しんで楽しげに会話しているのに、私たちは寂しげな顔で別れ話をした。別れを切り出したのは陽太。でも私も陽太に言われなければそのつもりだった。悲しかった。嫌いになって別れたわけではない。それは私だけじゃないと思う。別れを切り出された時に言われたのだ、「好きって言ってくれてすごく嬉しくて、でも友達だったのが長すぎて段々話し方わかんなくなって。これからお互い違う学校だし、このままより友達に戻って仲良く前みたい話せる方が俺は嬉しい。から、別れよう。」と。こう言われたからこそ辛かった。いっそ嫌われて別れた方が楽だったのにとすら思う。会話にならない日々でも付き合ってるという関係がすごく嬉しくて毎日が輝いていたのに。6年間の片思いは半年の付き合いにしてあっけなく終わってしまった。

グレープフルーツを見ると、陽太を思い出す。これは、私達のはじめての共通話題だったからだ。私は今でも苦手だが、今思い出せば陽太は私と付き合い始めたあたりからは普通に食べるようになっていた。それが余計に私を悲しくさせた。いつのまにかその共通点すらなくなっていたのだ。
私は今でも陽太が好きだ。別れてしまったけれどまだ好きなのだ。復縁したいとかではない。だって友達に戻った今の方が話せているから。今はこの関係を大切にしたい。初恋にして壮大な恋をしてしまったなと思う。告白するタイミングをもっと考えれば、あの時もっと話しかけていれば… 考えればたらればはいくらでも出てくるし、今でも思い出せば辛いけれど。
でもいつかこの初恋が良い思い出として胸の中にしまっておけるようになればなと思う。陽太と出会って過ごした7何間、楽しくて充実した日々だったことに変わりはないから。