「そ、んな人いないよ」
「いたとしての話だよ」
そんな人いらないよ、水樹くん。
そんなたとえ話しないでよ、水樹くん。
そんなふうに水樹くんを責めそうになる自分を、叱る。
水樹くんは、なんにも悪くない。
水樹くんは、ただ恋を知りたい男の子で、まっすぐで正直で、ただそれだけ。
私を傷つけるつもりなんてひとつもない。
優しい人なんだから。
そういうところを知って、もっと好きになったんだから。
だから。
「無理だろうなあ」
笑って言った。
「なんで?」
「好きな人を、心から好きだから」
笑って言うと、水樹くんは両手で私の頬をつつむ。
そのまま、く、と私の顔を上向かせて、引きよせて、触れようとして、止めた。


