水樹くんは数秒、黙って。
『ん。今夜はよく眠れるわ』
おやすみ春田さん、それだけ言って、私のおやすみも聞かずに電話を切ってしまった。
……おやすみくらい、私にも言わせてほしいな、王子さま。
水樹くんの言った、よく眠れる、の意味はわからないけど、メッセージの意図も電話の意図もわからないけど。
眠る前に水樹くんの声が聞けた。
それだけで胸がいっぱいで、きっと私は眠れないや、と思う。
でも水樹くんのさらさらの声は心地よく耳の奥に残って、なくさないように何度も何度も思い出してるうちに、私は意外にもすうとそのまま深く眠ってしまった。
<ありえなくねーと思うけどなあ>
五十嵐先輩からのそのメッセージと、少し遅れて届いた白川先輩のメッセージに、気がついたのは日曜の朝で。
その日は、水樹くんからのメッセージと着信履歴をぼんやり眺めるばかりで、夜になった。


