水樹くんの背中に手を回すことなんてできないまま、言う。
「お昼に、約束したでしょ?」
「でも、待たせたから」
「これくらいで勝手に帰ったりしないよ」
安心させたくてゆっくり言うと、水樹くんは、ん、といつもの相槌をうって、ようやく私から離れた。
でも、両手は私の後ろ首にひっかけたまま。
距離をとりながら、でもしっかり繋いでおくみたいに。
こんなの、切なさとうれしさでどうにかなりそうだ。
水樹くんは私を繋いだまま、なお視線で私を縛る。
「風香ちゃん」
突然名前を呼ばれて、ときめきで体がかたまってしまった。
「は、はい」
「風香?」
「ど、したの水樹くん、急に」
震えそうな声で言ったら。
「……春田さん。なんで俺にキスされたのに怒んないの?」


