「……王子なにしに来たの?」
「麗ちゃん」
「うん?」
「さっきの、やっぱり違うよ」
「さっきの?」
『大抵の男は、自分を好きな女にはなにしたって許されると思ってるってこと』
水樹くんは違うよ。
むしろその逆だよ。
自分のことを好きな女の子へは、泣かせないように期待させないように細心の注意を払う。
でも、そうじゃない女の子の扱い方はまるで知らない。
「……水樹くんは、自分のことが好きじゃない女の子には、きっとなにしたっていいと思ってるんだよ」
それは悪意でもなんでもなくて。
きっと水樹くんのなかで、鈍感な部分なんだ。
それに私は振りまわされてる。
でも、そうなることを望んだバカは私だ。
会いたい、と思う気持ちは全然割れない風船みたいに、胸にふくらんでいく。
胸からとりだしてあの真っ青な空に飛ばせたら、どんなに楽だろうなぁ。
水樹くんから手渡された参考書を、私はぎゅっと胸に抱きしめた。
でも宝ものだから、きっとそんなことできないね。


