「ねー、春田さん」
やわらかい声で、私の名前を呼ぶ。
風の音も、吹奏楽部の音も、なにも聞こえない。
ただ胸の音だけ。
「恋、いいかもね」
鼓動だけ、うるさい。
「……そ、ですか」
「春田さんのおかげで、興味わいた」
水樹くんは鼻先をつまんでいた手を、そのままするり、頬にすべらせて。
「こっち見て」
ささやく。
例によって水樹くんにあらがえない私は、ゆっくり視線をあげる。
とくんとくん、鳴り続けている、音。
頬に手をそえられたまま、視線がぶつかった瞬間。
「俺に恋、教えてよ。春田さん」
落とすように、水樹くんは言った。