「……水樹くんは、恋、したことないの?」
私はそっと、ポケットのなかの小箱に触れて聞いた。
告白してるわけでもないのに、ずいぶん勇気をつかった。
「一切ない」
水樹くんは即答する。
「春田さんはあんの?」
横目で見て言われて、思わず視線をそらした。
「……ある、よ」
「えーまじ?先輩っすねー」
からかうように薄く笑って言われるから、あわてて首を横に振る。
そんないいもんじゃないし、好きなのはあなただし。
現状相当、無理めの片思いだし。
「恋恋恋ってみんな言うけどさ」
水樹くんは気だるげに言って、椅子の上に片足をあげ、
「……恋ってそんなスバラシイもん?」
膝で頬杖をついて、聞く。
「わかんないんだよね、俺、泣かしたことしかないし」
伏せた睫毛でゆっくり瞬きを落として、そんなこと言うから。
どうしようもなく切なくなった。


