水樹くんがどんなプレゼントも絶対に断らない、というのは有名な話だ。
もちろんバレンタインのチョコも。
だからみんな、渡すのだ。
「全部もらわないと学級崩壊が起こる」
水樹くんは前を向いて、真顔で言った。
予想外の返答に、私は首をかしげる。
「学級崩壊……?」
水樹くんは、うん、とこともなげにうなずいて説明しはじめる。
「中2の誕生日も放課後クラスの子から呼びだされて、今日みたいにお菓子もらったんだけど」
「うん」
「ひとりからもらってると、ほかの女子も一気に集まってくんのね」
「だろうね」
「でも俺、その日先生に呼びだしくらってて。職員室。で、やむをえず途中で切りあげたわけ」
「プレゼント祭りをね」
「そー。で、そしたら次の日、学級崩壊」
水樹くんは言って、クッキーをまた1枚食べる。


