ポケットに隠した、クッキーの存在を思い出したから。
もう二度と、渡せることはないクッキー。
まーね、と言った水樹くんは、つまんでいたそれをぽいと口に入れる。
「……おいしい?」
「普通にあまい」
また胸が痛くなる。
水樹くんがいやってほどのプレゼントを受けとってることは、知ってる。
C組のロッカーのプレゼントの山だって見た。
それでも、ほかの女の子が作ったクッキーを食べてる水樹くんを見るのは、つらかった。
身のほどしらずだ。
「……春田さん、こっち見すぎ」
もぐもぐしている水樹くんが、横目で私を見て言うからはっとする。
「欲しいなら欲しいって言いなよ」
「欲しくない、欲しくない!」
そんなの食べたら死んじゃう、悲しみで。


