「……大変だったねえ」
「まー。でも俺が泣かせたことに変わりはないし」
けろっと言ってのける、整いに整った横顔。
「……それで名前、忘れないようにしてるの?」
「うん、できるだけ」
ものすごい王子っぷりだ。実直なまでの王子っぷりだ。
「経験則で8割方は俺のこと好きだからね」
さらっと言うけどさ、水樹くん。
普通、1時間泣かれたからってそんなことしようなんて思わないよ。
園芸委員の集まりのときだって、教室には1年から3年までみんな集まって全員で30人はいたはず。
女子がその半分だとしたら、15人。
ただの自己紹介だけで、15人の女の子の顔と名前を覚えなきゃいけないなんて。
……そりゃ、疲れもするよ。
隣でぼんやり座ってる水樹くんを見つめて、そんなことを考えてたら。
ぐう、なぜかおなかの音が鳴った。


