……春田さん、って。
「な、なんで私のこと知ってるの……?」
「あれ、去年園芸委員一緒じゃなかったっけ」
水樹くんはひとりごとのようにつぶやきながら、すたすた死角へ歩いていったかと思えば、どこからかもうひとつ椅子を持って帰ってきた。
自分の椅子のすぐ横に並べて置いて、座面を手でぱんぱんとはらう。
「ん。座れば?」
それだけ言って、もと座っていた椅子に座った。
私はドアのそばに立ったまま、こくり、うなずく。
聞きたいことは、たくさんある。
ここにはしょちゅう来るの?
なんでこんなところに教室の椅子があるの?
でも今、そんなことを聞く余裕なんてない。
ただ、名前を呼んでくれたこと。
私の椅子を用意してくれたこと。
ここにいていいよって言ってくれたこと。
それがうれしくて、胸がいっぱいで。


