「帰んの?」
後ろから言われて、心臓が音をたてた。
……だってさっき、早く出てったほうがいいよって。
ゆっくり振り返り、水樹くんを見る。
「もうちょっといればいいのに」
こっちを見ないで、前を向いたまま彼は言った。
握られたように、心臓がぎゅぎゅぎゅとなる。
水樹くんの表情は見えない、後頭部しか見えないのに、不思議だ。
恋って不思議だ。
「……いいの?」
「いいんじゃない?俺の場所でもないし」
「う、ん」
「まー見つかったらたぶん怒られるけど」
水樹くんは立ちあがると私を見て、きれいな瞳のかたちは変えず、唇だけで笑って言った。
「そこは自己責任ね。春田さん」


