走りだしていた。
昇降口に向かって走って、そのまま校舎に駆けこんだ。
呼び戻す、絶対、呼び戻す。
双眼鏡でのぞいただけで、真っ赤に照れた顔がかわいかった。
無意識にも意識的にも、かわいいなんて言ったのははじめてだった。
『昔からかっこよくて大人気だったよ』
五十嵐先輩を見て、そんなこと言うから。
『俺のがかっこいいよ』
そんなかっこ悪いことまで口走ったよ。
『今も昔も、みんなのあこがれの的だよ』
『白川先輩のことは、うらやましいかな』
切なそうに言うから。
春田さんは、あの男が好きなのか。
そう思ったら、熱くて苦しかっただけの心臓が、急に痛くなって。
『……春田さんは、俺のこと好きじゃないから変な期待とかしないし、学級崩壊も起こさないし』
自分で言っておいて悲しくなって。


