「スーパーで買ってきたお花、植えなおしてたの。ひとつだけ種類違ったけど、去年ちゃんと咲いてたんだよ。知ってた?」
俺は首を横に振る。
見向きもしなかった。
奪われたら、それで終わりだって。
「優しい子だから、滅多に怒ったり泣いたりしないんだけど。よっぽど悔しかったんだろうね」
去年の春田さんは。
ただ顔と名前を覚えただけの、ただの知らない女の子。
それなのに、俺のために泣いてたの?春田さん。
「あの子へんに不器用なとこあるから、大事にしたげてね」
白川先輩は立ちあがって言って、去っていこうとするから。
「でも、俺が選んだら、」
呼び止めるように、声がでた。
手のなかの、小さな上履きを握る。
「あの花みたいに、奪われます」
白川先輩はくるりと振り返って、あっさり言う。
「じゃあ奪われないように、ちゃんと抱きしめてあげなくちゃね」
「きみが守りきれないぶんは、恋がちゃんと守ってくれるから、大丈夫だよ」
恋がちゃんと、守ってくれる。
恋は強いから。すごいから。


