もうあのときには、とっくに好きになってた。
でも恋なんてしたことがないから、わからなかった。
わからなかったけど、どうしても手放したくなくて。
『俺に恋、教えてよ。春田さん』
咄嗟に言った、言葉だった。
ああ、あのときあんなこと、言わなきゃな。
泥だらけの上履きに目を落とす。
春田さんは優しい子だから、こんな目にあったことなんてないだろう。
なにがなんだかわからないけど、さっき春田さんは俺のことが好きだと言った。
言ってくれた。
そんな春田さんに、今後、こんなことが続いたら。
俺は。
「あ、王子さまだー」
突然、明るい声が飛んできて顔をあげたら、そばに立ってる誰かが俺を見おろしていた。


