水樹くんはゆっくり、私の腕のなかで顔をあげる。
揺れる瞳が、私をまっすぐ見ていた。
ああ、この人は私のことが好きなんだ。
瞳はうそをつけないから、すぐわかった。
それなのに。
「春田さん、やっぱ俺、桃井さんと付き合うわ」
水樹くんは、瞳と裏腹にそんなことを言った。
「な、んで?」
「そしたら春田さん、こんな目にあわない」
ああ、水樹くんのバカ王子。
違うよ、そうじゃない。
「だめだよ、それじゃ、水樹くんの恋はどうなるの……?」
私がいちばん大切な水樹くんの気持ちはどこいくの?
水樹くんは右手をそっと、私の頬にそえる。
「王子に恋は、無理」
目を細めて、寂しそうに笑う。
いちばん、見たくなかった顔。


