水樹くんは険しい顔のまま、奥に置き去りにされてる物の山から椅子を引っぱりだしてきて、ドアのすぐそばに置いた。
いつかしてくれたように座面を手ではらって、きれいにしてから、
「座って」
水樹くんは言ってくれる。でも首を振る。
「いいから座って」
はじめて厳しい声で言われて、私は言われるがままそこに座った。
水樹くんが片膝をついて、私の足にそっと触れる。
白い靴下は、もうどろんこになっていた。
「水樹くん、汚いよ」
「……誰にされたか、わかる?」
ああ、さすが王子さまだなあ。
なにがあったか、すぐわかっちゃうんだ。
「自分でなくしただけ」
「どうやって靴なくすの」
水樹くんが鋭い視線を投げてくる。
そんな顔、似合わないよ、水樹くん。


