それなのに、それさえ上手にできなかった。
ひとりで屋上を出ていった水樹くんの背中は、とても寂しそうだった。
なんであんなふうになっちゃったのかな。
水樹くんの声を、言葉を思い出す。
『じゃーなんで、春田さんは俺のこと好きになんないの』
なんで、水樹くんはそんなこと聞いたのかな。
『春田さんは、どうやったら俺のこと好きになんの』
もうとっくに、ずっと好きなんだけどな。
でも水樹くんは、そんなこと知らないから。
だから私に、聞いた。
なんで?
自分を好きにならない女の子が、めずらしいから?
……それとも。
唐突に浮かんだ考えに、首を横に振る。
そんなわけない。
ありえないよ、思いあがりもいいところだ。


