「王子ですから」
水樹くんが水樹くんらしからぬことを言うから、咄嗟に振り返った。
「水樹くんは水樹くんだよ」
思わず言うと、水樹くんは椅子に座ったまま私を見据える。
声のトーンを落として。
「私のこと好きじゃなくてもいいからって言われた。周りは、桃井さんなら女子も納得するって。現状いちばん平和な手だぞって。春田さんはどう思う?」
「どう、思うって?」
「俺と桃井さんが付き合ったら」
「……好きなの?桃井さんのこと」
「全然」
水樹くんは、まっすぐ私を見て言った。
痛いくらいの視線に貫かれて、息がつまる。
「……なんですぐだめって言わないの」
水樹くんは椅子から立ちあがって、責めるように言った。


