「見事な変身ぶりだわ」
「とてもよくお似合いです」
 シエナとクラレットが満足そうに笑っていますが、この後のことを思うと鏡に映る私の顔は曇りました。
「これからパーティーかぁ」
 本物のセレブの中に混じるわけでしょ? お稽古はたくさんしてきたけど所詮はにわか令嬢、本物から見ればすぐに偽物だとバレるかもしれない。そう考えると、また緊張がぶり返してきた気がする。
「大丈夫です。竜王様がお側にいらっしゃいます」
 鏡に映る顔がちょっと引き攣ったのがバレたようで、クラレットがそっと私の手を取り、指輪を見せました。
「この花はアンフィスバエナ・レピという宝石でできてるんですよ」
「アンフィスバエナ・レピ?」
 てっきり黒蝶貝か何かだと思ってたけど、違うのね。聞いたことのない名前だけど、この世界で採れるものなのかな。
「はい。これは本当に特別なものでございます」
「別名『竜の鱗』と申しまして、竜王様の竜姿の時の鱗からできております」
「竜王様の、鱗!?」
「そうでございます。普通なら鱗は、剥がれ落ちてもしばらくすると消えてなくなります。しかし竜王様が特別に必要とされる時、それに特殊な加工を施して宝石化されるのです」
「加工の方法は私どもも知らない、王家の秘密です」
「えええ……」
 クラレットとシエナの説明を聞いて、私は絶句しました。なんつー貴重なものをくれたんですか、竜王様。改めてじっくりと花の部分を見ると、一見黒ですが、角度によっては深緑だったり藍だったりと、玉虫色に変化する本当に綺麗な石です。
「竜王様の鱗……」
 竜姿の時に、自分で引っこ抜くのかしら? なぜか『鶴の恩返し』的な感じでイメージ再生されちゃったけど。とにかく超絶貴重な宝石だということはわかりました。その上竜王様の〝想い〟も込められてるし……そうね、守られてる気がするし、乗り切れる気もしてきました。