そうこうしているうちに、行事の日が目前に迫ってきました。時間があまりなかったのでティア・モーブに行けなかったけど、周りのみんなのサポートに支えられて、なんとか踏ん張れた気がします。
 今日は当日に着る予定のドレスが出来上がってきたので試着をしています。
「すごく素敵ですよ!」
 シエナとクラレットに手伝ってもらって装着したのは、黒を基調としたAラインのドレスです。ビスチェのデコルテがストレートとハートの間くらいの開き具合で、まあまあ露出は高め。こういう服を着ない私としては、ドキドキよりもヒヤヒヤしちゃいます。
「も、もうちょっと胸元の露出を控えめにしません?」
「ライラ様がそうおっしゃるなら、少しラインを上げましょうか」
「ホッ」
「このくらいで……」
 全体を見て調整しているウィスタリアさんが、ドレスの胸元を引き上げています。試着の段階だから、まだ修正の余地があるみたいで安心しました。胸がないとは言わないけど、見せびらかすほどでもないし。ダサくならない程度に調整してもらいましょう。
「調整はいたしますが、それでも気になるようでしたら、ストールを着てもよろしいかと存じます」
「あ、ぜひ用意しておいてください」
 ストールを羽織れば安心です。
 スカートの部分は一番内側が濃いベージュのシルクで、その上に黒のオーガンジー、白のオーガンジーと重ねられ、一番外側はまた黒のオーガンジーが、綺麗なウェーブが出るように重ねられています。一言で黒系のドレスと言っても数種類の色が重なり合っているので重たい印象ではありません。ドレスを作る時に『竜王様が黒の衣装をお召しになるので、それに合わせた色でお作りしましょう』と言われたので、どんな喪服が出来上がるのかと密かに心配したんだけど。デザインや作り方によってはシックで素敵になるんですね。ヴィランズにならずに済んでよかった。
 首飾りは、パールのような宝石を五連ねじってボリュームを出したものでした。色のついた宝石よりも、シックなドレスによく合っています。
「こんなドレスを着てると、本当にお嬢様になったみたい」
 鏡に映る自分の姿にため息が出ました。マジで他人すぎる。
「大丈夫、もうライラ様はどこからどう見ても素敵なレディでございますよ」
「おほほほほ。ボロが出ないよう、気をつけますわ!」
 大丈夫、いっぱい練習したんだもん、ちゃんとできるって。——と、自分に言い聞かせておこう。