行事当日の食事スタイルは立食ということなので、テーブルマナーよりも、立ち居振る舞いのお稽古に時間を割くようになりました。いかに優雅に振る舞えるかが勝負です。基本ガサツな私には、なかなか難題です。
 歩き方は、最初の頃はまっすぐ歩くのが精一杯だったけど、最近は頭の上に本を載せることもできるようになりました。まっすぐ、優雅に、笑顔も忘れず。なんなら鼻歌でも歌いましょうか?
「本当に、上手になられました」
 ウィスタリアさんにも褒めてもらえたので、自信を持って歩けます。
 他にも椅子の座り方、優雅な話し方、ダンスの受け方・断り方など、行事の時に必要そうな、超実践的なことを徹底的にやりました。そして、教えてもらったら即実践です。日常でも使うことを徹底しました。部屋から部屋への移動も、微笑みを浮かべてゆるゆる優雅に。しかし、話す時に、いちいち扇子で口元隠して喋るのはめんどくさい……。
 でもそれは『ON』と『OFF』が入れ替わるまで。
 下っ端メイドのライラに戻ったらダッシュで厨房に向かい、一心不乱に調理します。今は厨房で調理している時間だけが解放の時間だもの、いちいち優雅に振る舞ってられないっつの。
「扇子で口元を隠しておしゃべりするの? できるの? ライラが?」
「できますよ! マゼンタさん、ごきげんよう。うふふふふ。ってね!」
「あはははは!」
 愚痴っていたらマゼンタに疑われたので、扇子の代わりに手で口元を隠して『わたし的最大お嬢様ぶりっ子』をして微笑んでみたら爆笑されました。
「練習の成果出てるじゃない。本物のお嬢様に見えたわ」
「あら、ほんと?」
「うんうん! イケてる」
「ならよかった〜」
 お世辞とか言う柄じゃないマゼンタにそう言ってもらえると、また自信がつきました。