時々不安になったりすることもあったけど、竜王様を始めとした周りのみんなの励ましもあり、建国記念行事に向けての準備は着々と進んでいきました。

 いつもなら図書室での座学の時間、今日はなぜか竜王様の執務室に呼ばれました。フォーンさん、ウィスタリアさんと一緒に部屋に入ると、竜王様と三将様がすでに待っていました。
「ライラの『設定』が決まったので、きちんと擦り合わせておこうと思って呼びました」
 インディゴ様が、私をここに呼んだ趣旨を説明してくれました。ポッと出のお嬢様の設定、認識の食い違いを防ぐためですね。
「ライラは、これから交易を考えている国の貴族令嬢ということにします。竜王国のことを知っていただくためにご招待している、と」
「ええ……でも、それは普通、父親とか男兄弟とか、もっと商談を左右する人物を寄越しませんか?」
「当主や主要な男子が来れないのは、商談が現在も向こうの国で進んでいるからというのでいかがでしょう。男子が国を離れられない、そこで〝しっかり者〟の長女の出番です。まあ、交易以上の繋がりを見据えての使者という設定も匂わせています」
「しっかり者設定やめましょう。すぐにボロがでます」
「仕方ないですね」
 しっかり者設定は却下されました。そして『交易以上の繋がり』は、いわゆる政略結婚的なアレですね。
「詳しい国名などは、商談が進んでいる現状を鑑みて、秘密事項ということにします」
「ポシャる可能性もあるからね」
「なるほど」
 具体的な国名を出すと、設定がバレるからかなと思ったんですけど、なるほど、商談自体がなくなる可能性もあるからか。スプルース様の補足で理解しました。
「ですので、ライラも、詳しいことを聞かれたら『今は何も言えない』で逃げてください」 
「わかりました」
「私たちも『詮索無用』でやり過ごしますから。まあ、『竜王様の特別な客』でしかも『女性』。大半はそちらばかりに注目がいくと思います」
「あ〜……」
「ま、それで察するよな」
 この設定で行事に参加するということは、暗黙のうちに『竜王様のお妃候補』と知らしめる効果もあるってことですか。めちゃくちゃ謎い人物なのにお妃候補認定させるって、力技がエグい。
「では当日まで、ライラはしっかりこの『設定』を叩き込んでおいてください」
「わかりました」
「フォーンもウィスタリアも、この設定を周りに周知するように」
「はい」
「かしこまりました」
 この瞬間から、私は『他国の貴族令嬢』という謎の人物になりました。とりあえず今聞いたこと、メモっとかないと忘れそう。