ティア・モーブに着くと、早速アスターが出迎えてくれました。
「アスター!」
「ライラ! きょうはライラがくるってきいたから、ついてきちゃった」
「私もアスターに会いたかったからうれしいよ。お土産あるから、中で食べよう」
「うん!」
 ギュッと私の足に抱きついてくれたかわいいアスターと手を繋ぎ、お店の中に入りました。
「こんにちは、モーブさん、ラピスさん。週末お世話になります」
「はいよ。着いて早速だけど、手伝ってもらうよ」
「任せといてください! あ、これ、トープさんからの差し入れです」
 トープさんからもらってきたのは、竜王国ではめったにお目にかからない果物でした。お城に出入りしている業者さんが、珍しいものが手に入ると持ってきてくれるんです。竜王様たちにお出しできない部分を、少しお裾分けしてもらいました。『小さな友達とお食べ』って、雑談していた時にポロッと語ったアスターのことを、トープさんが覚えていてくれたんです。
「冷たいうちに食べましょう」
 お城でキンキンに冷やしてきたものを手早く皮を剥き、一口大に切り分けました。果物はピタヤといって、前世でいうところのドラゴンフルーツにそっくりなんです。味はこちらの方がねっとりとした濃厚な甘さが特徴です。焼き菓子なんかには向いてないので、お城でも冷やしてそのまま食べたり、アイスにしたりしています。
「ドラゴンが治める竜王国なのに、ドラゴンフルーツが珍しい果物とはこれいかに。ぷぷぷ」
 自分で言って自分で笑っていると、アスターが不思議そうに果物を見ていました。
「これ、なあに?」
「ピタヤっていう果物よ。特別にもらってきたの」
「ごつごつして、うろこみたい」
「そうだね。遠い国では『ドラゴンフルーツ』って呼んでるところもあるらしいよ」
「ふうん。わぁ! おいしい」
「でしょ〜」
「しかし、なんで竜王城で働いてるのに、週末だけこっちに来るの? 週末だってお城の仕事はあるんでしょ? よくわからないわね、ライラって」
 モーブさんは私の事情を知ってくれていますが、ラピスさんは私のことを『普段は竜王城で働いていて、週末はティア・モーブに手伝いに来る臨時バイト』と思っています。本当のことを知ったらややこしくなりそうなので、私の身の上は秘密事項にしてるのです。
「あ〜、その〜、息抜きというか?」
「ふうん。たまに聞く噂話だと、竜王城って大変なんだって? 竜王様の逆鱗に触れたら即クビとか。使用人は休む暇なく働いてるとか、いい噂聞かないしねえ」
「そんなことないです! 竜王様は優しいですし、みんな喜んで働いてます!」
「あ、そ……そうなんだ。うん、まあ、落ち着いて」
 私の剣幕にラピスさんが引いてます。一般レベルでは、竜王様の誤解はまだまだ解けていないようですね。

 ティア・モーブでの週末は、料理でストレス発散し、可愛いアスターには癒されたしで、充実の二日間でした。これでまた一週間、頑張れそうです。