竜王様にお出しする味噌汁と使用人みんなが食べる賄い用ができたら、またまた部屋にダッシュで戻り、晩餐用のお着替えです。今度は『下っ端メイド』から『お妃候補』への変身です。気を引き締めて、臨みましょう。

 初めて見るアラの味噌汁に、竜王様が静かに驚いているのがわかりました。お頭付きの魚は料理として出てくることがあったと思いますが、頭と尻尾がお皿から豪快にはみ出したスープなんてなかったんですから。
「これは……なんだ?」
「食用に満たない部分からお出汁を取っているんです。見た目は豪快ですけど、味はいいので、まあ、食べてみてください」
「そうか」
 ダイニングテーブル、ちゃんと自分の席についていますがスープを作ったのは私ですから、説明するのも私の責任です。説明を聞いてから、竜王様は一口スープを口に運びました。
「ほう。美味い」
「ありがとうございます」
 自信を持ってお出ししてるけど、気にいるかどうかは竜王様次第。竜王様が味わっている間、ドキドキしながら見守りました。さっきとは違った驚きが口調に出ていたので、どうやらお口に合ったようですね。自然と安堵の深いため息が漏れました。
「きっと竜王様もお好きな味だろうなぁって思ってたんですけど、美味しいって言ってもらえて嬉しいです」
「そうか」
 竜王様に続いて他の方々も口にして、そして驚いています。
「これは、魚の捨てる部分でしょう?」
「はい」
「よく利用しようと思ったな。すげえ美味い」
「こういう料理の方法を、以前なにかの本で読んだんですよ」
 前世の知識だけどね! ま、料理本は嘘じゃないけどね!
「毒じゃなければなんでもアリでしょ」
 なかなか毒舌なスプルース様も食が進んでいるので、気に入っていただけたようです。
 やっと自分も食事を始めたけど、自分で言うのもなんですが、いい出来でした。