相変わらず重厚な竜王様の執務室。前に来たのは、竜王城脱出前でしたね。そんな久しぶりのお部屋に入ると、竜王様とインディゴ様がいました。ひっそりとフォーンさんも。二人はソファーでお茶を飲んでいて、その後ろにフォーンさんが控えている感じです。竜王様は——いつも通りの無表情なので、お怒りなのか呆れているのか判りにくい、です。
「ただ今戻りました」
「長かったな」
「申し訳ありません。ご厚意に甘えて長居してしまいました」
 一週間はそう長くないと思うけど、竜王様が『長い』と言えば『長い』んです。ということは、ご機嫌はよろしくないようですね。
「むしろ早い帰りだと思いますけど。ひと月くらいいてもよかったのに」
 インディゴ様が竜王様を見て意味深に微笑んでいます。
「いえいえとんでもない! 十分な時間でした」
 竜王様がじとんと睨んでますよ! 煽るな煽るな〜っ! 私は慌ててインディゴ様を止めました。もうっ、竜王様の機嫌がさらに悪くなっても知らないんだから。
「——とにかく、元気になったようだな」
 ハラハラしたけどどうやらすぐに流したようで、むしろさっきより表情が和らぎました。
「おかげさまで、またこちらで頑張れそうな気がしてきました」
「そうか、ではまた明日から——」
 また明日から頑張れよ! 以上、解散! という流れになりそうな雰囲気を出す竜王様。このままだと以前の生活に逆戻りです。直談判するために意を決したんでしょ、私! 話が終わりそうだったので、私は慌てて次の句を繋げました。
「つきましては、これからのことについてご相談したく思います」
「これからのこと?」
「はい。今回ストレスを感じてしまったのは、突然の環境の変化についていけなかったのが原因だと思われます」
「ふむ」
 竜王様が私の話を聞いてくれる体勢になりました。よし、今だ。畳み掛けろ。
「できれば勉強やお稽古ばかりではなく、今まで通りの生活もしたいと思うのです」
「今まで通りとは?」
「私の仕事である、厨房のお仕事もさせていただきたいんです。言っても、片付けや掃除はできないので、調理に集中します」
「それでは以前と変わりないのでは? まあ、皿は割るわ、掃除をしたら逆に散らかすわ——」
「フォーン!」
「失礼いたしました!」
 フォーンさんがいらないこと——ゲフゲフ、私の所業を数え上げ始めたのを、竜王様が静止してくれました。言われなくても自分が一番知ってるっつの。
「もちろん、勉強もお稽古も頑張ります」
「…………」
「いかがでしょうか?」
 じっと私の目を見ながらプレゼンを聞いていた竜王様。少し考えてから、ゆっくりと口を開きました。
「ライラは……具体的には、どういう風にしたいのだ?」
「午前中は勉強の時間、お茶の時間まではお稽古、その後は厨房に行って、お仕事の時間といった感じです」
「…………」
 ざっくりとした私の提案を聞いてくれた竜王様は、また少し考え込みました。そして。
「より一層忙しくなるぞ?」
「大丈夫です! あ、でも——」
「でも?」
「週に一度、いえ、せめて隔週でもいいので、ティア・モーブに顔を出してもいいですか?」
「外出したいと?」
「そうです」
「——いいだろう。聞いたか、フォーン。明日からの予定を、ライラの言うように組め」
「かしこまりました」
「ありがとうございます!」
 やっぱり、話せばわかる竜王様でした。