「竜王様に会うなら、部屋に戻って着替えないと」
「そうだね。誰か、ウィスタリアを呼んできておやり」
「はーい」
 その間に、駆けつけ三杯……ではなく、とりあえずお茶でも飲んで待っときなということで、マグカップを用意してくれました。マグカップ! お作法も何も気にせず飲めるなんて……と、軽く感動。
「短かったのか長かったのかわからないけど、まあ、自分で戻ってこようって思えるまで回復したんだね」
「はい。向こうではモーブさんに大変お世話になりました」
「気を使わないからよかったんだろう」
「そうですね」
 モーブさんも変な気を使わないし、私も気を使わない。以前のままの関係が心地よかったんだよなぁ。そういえばトープさんも——いや、トープさんだけでなくマゼンタも、前と変わりないような?
「トープさんたちは、私のことをライラ『様』って呼ばないんですね」
「あ〜……。ライラがずっと厨房に顔出すことなんてなかったから、すっかり忘れてたよ」
「そんなもんですよね。あはは!」
「実際、ライラがお妃様候補と言われても、まだピンときてないし」
「私もきてませんて」
「本当は言葉使いも改めて、ちゃんと『ライラ様』とお呼びしないといけないんだろうけど」
「やめてください! それ、地味〜にストレスだったんですから。私は、今まで通りに接して欲しいんです。じゃないとまた家出しますよ」
「わかったわかった。フォーンには内緒にしないとね」
「もちろんです」
 厨房(ここ)にくれば以前と同じ環境で過ごせる。安息の地を見つけたような気分です。
「またここで、賄いやスープを作りたいなぁ」
「まあ、ライラがそうしたいっていうなら大歓迎だよ」
「ほんとですか! あのっ、モーブさんのところで新しいメニューができたんですよ! それを早く竜王様やみんなに食べて欲しくて——」
「そうかい、それは早く食べたいね」
「もう、めっちゃ美味しくできたんです」
 そう、そのために戻ってきたんだから。う〜ん、あとはどうやって厨房に来れるようにするか……これは竜王様と交渉しないとですね。