「ただいまです〜!」
 バーンと私が元気に開けたのは、竜王城の厨房の勝手口。昼食の片付けと晩餐準備の間、おやつを食べたり遅い賄いを食べたりする休憩時間を狙って戻ってきたので、ほぼ全員の視線が私に集中しました。座ってお茶を飲んでいたトープさんが、こちらに向かってきました。
「いきなり勝手口から入ってくるから誰かと思ったら、ライラかい」
「こっちの方が入りやすかったもんで……えへへ」
 竜王城の敷地には正面の正門から堂々と入ってこれたんですが、さすがにお城の正面玄関は……私には無理でした。だって正面玄関は竜王様以下、お貴族様やお客様が使うところなんですもん、下っ端メイドなんかが使っていい場所じゃないからです。『お妃候補』よりも『下っ端メイド』感覚の方が勝る私が向かうところは——。というわけで、使い慣れた勝手口まで回って入ってきたという訳です。
「その顔は、しっかりリフレッシュできたようだね」
「はい! わがまま言ってすみませんでした」
「謝るのは私らにじゃなくて、竜王様にだろ」
「そうでした」
 しかし、どうやって竜王様に会いに行こう。今来てる庶民服を、部屋にあるお姫様ドレスに着替えてからじゃないとダメだよねぇ。そもそも、一人でノコノコあの部屋に戻っていいものか? ウィスタリアさんに会う方が早いかな。——なんて考えていると。
「お〜、家出は楽しかったか?」
 呑気な声が聞こえてきました。厨房に、違和感しかないこの声は。
「バーガンディーさん! なぜここに?」
「いや、小腹が減ったからつまみ食いに来たんだけどさ〜、そしたらライラがいるからさ〜」
「つまみ食い……」
 相変わらずこの人は自由人だなぁと苦笑していたら。
「ライラがいないせいで、私がおやつ係になっちゃったんだからね!」
 お怒りモードのマゼンタが、呑気に笑うバーガンディーさんにお皿を差し出していました。
「マゼンタのもライラに負けず美味いんだぞ」
「はあ? そんなこと言ったって、大盛りにはしてあげないんですからね!」
 プイッとそっぽを向いたけど、まんざらじゃなさそうなマゼンタはツンデレさんかな? なんか微笑ましい。

「ライラが一週間もいなかったから、ラファが寂しがってたぞ」
「いや、それは……どうかわかんないですけど」
「とにかくライラが帰ってきたこと、ラファに言いに行ってくるわ。さっさと教えないと後でしばかれる」
 冗談を言いながら、そしておやつを頬張りながら、バーガンディーさんは厨房を出て行きました。