あまりに充実しすぎた日々を送りすぎていて、気が付いたら一週間も過ごしていました。
「本当に、すっかり元のライラに戻ったね」
 夜の営業を終えお茶を片手にほっこり一息入れていると、モーブさんが噛み締めるように言いました。
「はい。おかげさまで気分が晴れました。もうずっとここにいたいくらいです」
「ははは! それはさすがに竜王様がお許しにならないよ」
「まあ、あんまり長居するなら強制的に迎えに行く的なことは言ってましたけど、無視しましょう」
「それは無視しない!」
 そう言ってまた豪快に笑うモーブさん。
「姉さんから聞いた話だけど、前にライラがいなくなった時、あの竜王様が珍しく落ち込んだそうなんだよ」
「え……?」
 滅多に感情を見せない竜王様が? 周りにわかるくらいに? ……って、嘘でしょ。初めて聞く、私がいなくなってからの竜王様の様子。落ち込むってことは、少しは寂しいって思ってくれてたってこと……だよね。
「必死に探してさ。うちにも、何度も捜索の騎士が聴き込みにきたよ。隠し立てしすぎで捕まるかと思ったけど、そんなこともなくてさ。以前の竜王様なら容赦なく捕まえて流罪なり牢屋なりに放り込まれたりしてただろけど。なんか変わったのかね?」
「あ〜……竜王様、そういうイメージ持たれてましたね」
 ほんとは優しい人なんだけどね。色々誤解とかが重なって『冷徹な王』のイメージがすっかり定着してました。きっとまだ大半の人がそのイメージのままなんでしょう。いつかその誤解が解ける日がくるといいけど。
「ライラのペースを考えずに勉強やお稽古させるのも、ライラが恥をかかないようにって思ってのことなんだよ。詰め込みすぎたのは、お披露目を早くしたいって焦っちゃったんだろうね、竜王様。それだけ早く、周りに『ライラがお妃』だって、知らしめたかったんだろう」
「むむむ……」
「竜王様の男心もわかっておやり」
 あ、それ、インディゴ様にも言われたわ。私はそんなに竜王様のことを理解してないのか。
「男心は難しいけど、善処します。最近、なにかにつけて竜王様のことをよく思い出すんですよね。アラのお味噌汁とか、カツオ出汁のお料理とか、作ってあげたいなって」
 ん? これってオカン的発想? ——まあ、思い出すってことには変わりないからいいね!
「そうかいそうかい」
「それに、受け身ばっかりでストレス爆発するのも良くないなって思いました。竜王城に戻ってから流されっぱなしで私らしさを見失ってたけど、今回はちゃんと、自分で自分の待遇を交渉しようと思ってます。考えてることはちゃんと口にしないと伝わらないですもんね。私も竜王様も、どっちも一方通行が過ぎました」
 自分の意見はちゃんと言おうぜ! ってね。もちろん私の意見も言うけど、竜王様の意見もちゃんと聞きますよ。
「ライラらしくなってきたよ」
「ありがとうございます! 竜王城に帰ってからも、時々ティア・モーブに遊びにきてもいいですか? アスターにも会いたいし」
「もちろんだとも」
「じゃあ、竜王様にこれ以上ご心配かけるのもいけないので、私は一旦帰りますね」
「今回みたいに爆発してからくるんじゃないよ。辛くなる前にくるんだよ」
「もちろんです!」
 ここで過ごした一週間で、かなり回復しました。これならお城に帰ってもやっていける気がします。