ランチ営業も終わり、ようやく一段落したティア・モーブ。モーブさんとラピスさんが片付けをしている横で、私はアスターとの約束のお菓子を作り始めました。
「今度は何を作ってるんだい?」
「お利口にママを待ってるアスターにおやつです」
「あら、ありがと!」
「好き嫌いとか、ありますか? それか、これを食べたら具合が悪くなる、というものとか」
「いや、特にないわ」
 よしよし、アレルギーもなしってことね。じゃあ、ぱぱっと簡単にできるものを作りましょう。
「普通に搾り出しクッキーかな。常温でできるし」
 私は材料を作業台の上に並べました。クッキーも、メイドの頃はよく作ってましたね。しかも竜王城なら冷蔵庫があるから、前日から仕込んでおいてアイスボックスクッキーなんかも作れちゃったけど——ああ、そろそろ竜王様も休憩の時間かな。仕事中に脱走して、お菓子をつまみ食いしにきたりしたこともあったよね。あの時はインディゴ様に怒られてたっけ。今頃はトープさん謹製のお菓子を食べてるのかしら。
「…………」
 あら。懐かしむように思い出しちゃった。まだ離れてから二日しか経ってないっていうのに。わたし的には今の距離感より、以前の〝王様と下っ端メイド〟の時の方が、竜王様に近かった気がしてるんだけどなぁ。
「いやいや、今は竜王様にじゃなくてアスターに、だわ。クッキー作るんだよ」
 気を抜くと竜王様のことを考えそうになるので、パンっと勢いよく両頬を叩いて、自分に喝を入れました。よし、美味しいの作るぞ!