出汁の幅が広がったことで興奮状態になったけど、夜は忙しいので、新メニューは次の日からにすることにしました。
「今日もやるのかい? 休まなくて大丈夫か?」
「大丈夫です! というか、ワクワクしすぎて休んでられません」
「そうかい」
 くすくすと笑って、モーヴさんは今日の仕込みに入りました。その横で私は、ランチに合わせて魚のアラの味噌汁を作ることにしました。昨日のうちに下処理を済ませ出汁を取っておいたので、今日はそれを調理するだけです。鮮度が大事なのでね。具材には大根やにんじんを入れましょうか。できたものはすぐにモーヴさんに味見をお願いします。新メニューなので、ドキドキです。
「どうですか?」
「なんだこれは……」
 モーヴさんの顔が一瞬険しくなりました。これは……どっち?
「ダメですか? 美味しくない?」
「いやいや逆だよ! めちゃくちゃ美味しい」
「よかった〜!」
 却下されたかと思って焦りましたが、お眼鏡にかなったようです。
「魚の臭みもないし、捨てる部分が格段に減ったし……ライラ、あんたほんとにすごいよ」
「ありがとうございます!」
 ちゃんと臭みとりの薬味を入れておいてよかったです。

 モーヴさんに作り方とかを説明していると、ラピスさんがやってきました。
「外までいい香りが漂ってきてたんだけど。なにこれ新しいメニュー?」
 お鍋を覗き込んでいます。
「あ、ラピスさん! そうです。さっきできたばっかりなんですよ」
「へぇ! いただいてもいい? あんまりいい匂いだから、お腹減ってきちゃったわ」
「どうぞ」
 私がお椀に味噌汁を注いでラピスさんに渡そうとすると。
「ごめん、もう一ついいかな」
「もうひとつ?」
「そう。おいで」
 ラピスさんの手招きで厨房に入ってきたのは、幼い男の子でした。