その日も午前中はいつも通り座学から始まりました。
 復習テストもなんとか満点を取りホッとしたのも束の間、次はマナーレッスンを兼ねたランチで息つく暇もありません。初日のお茶の時にインディゴ様が言ったように『正式なお茶の時間でもあるまいし、今のうちにどんどん間違えておけば、本番恥をかかなくてすみますよ』というお言葉通り、間違ったからといって、特に竜王様や三将様たちから注意されることはありません。でも、なんというか自分の中で『間違ったらアウト』みたいに思っていて、自分で自分を縛ってる気もするけど、とにかく気が抜けません。
 ランチが始まりスープ、サラダとお料理が次々に運ばれてきます。竜王様や三将様たちは話したりしてるけど、私にそんな余裕はありません!
「ライラがきちんと勉強してくれるので、順調に進んでいますよ」
「そうか」
「ね、ライラ。ずっと満点キープしてるんですよね」
「……サラダは難敵、フォークとナイフを上手に使って……」
 インディゴ様が話を私に振ってるみたいだけど、サラダに手こずってるので聞こえないフリ。——あ、違う! どんなに余裕なくても笑顔で会話する方が優先なんだった。って、竜王様とインディゴ様が何を話してるのか、すっかり聞いてなかったけど。
「すいへーりーべ、ぼくのふね、ですよね」
 うふふふふふ、と笑顔も忘れずに。
「ライラ?」
「インディゴ、ライラはなんの話をしてるんだ?」
「私にもさっぱり……ライラ?」
「はい?」
 あら、答えが違ったようですね。竜王様と三将様たちの視線が痛いです。
「あ、えっと、3.1415926535897932384626433でしたわ!」
 何気にすごいでしょ! まあ推しのグループの歌詞にあったから覚えただけですけどね。ちょっとドヤってみたんだけど、竜王様たちの反応が鈍い。
「さっきから、本当になんのことを言ってるのだ?」
「さあ……?」
「スプルース、ライラが言ってるのは何かの呪文か?」
「いや、違う。というか、ライラが壊れた」
「おーい、ライラ? 勉強のしすぎでおかしくなっちまったのかー?」
「そんなことないですよ。ウフフフフ」
 やだなぁ、みなさん〝大丈夫かコイツ〟みたいな目で見ないでくださいよ。至って普通ですよ。お妃教育という重た〜いお勉強に、プレッシャーとストレス感じてるくらいですよ。

「今日は時間が取れそうだから、ダンスのレッスンに付き合おう」
 気を取り直したらしき竜王様から、ありがたいお申し出がありました。初日以来、竜王様は時間を見つけて(作って?)は、私のダンスレッスンに付き合ってくれてるんですけど、正直、ド下手クソな私には豚に真珠(使い方が違うね!)。練習なんだからフォーンさんあたり(失礼!)もしくはソロで十分なのに。いつも忙しい竜王様の時間を奪ってると思うと、ほんとに胃が痛い。何度辞退しても『大丈夫だ』って一言で却下されちゃうし。はぁ。何気にこれもプレッシャー。
「そろそろ魔術についての勉強も始めた方がいいかもしれませんね」
「そうだな」
「ライラは使えないから、概念の話になる」
 は? 『使えない』のは通常営業ですが?
魔術が(・・・)使えないという意味だよ。間違えないで」
 スプルース様の言葉にこめかみがピキッとしましたが誤解だったようです。というかスプルース様、私の思考を読まないで。
「顔に出てる」
 ア、ソウデスカ。顔に出てましたか。じゃあ仕方ないな。はぁ……お勉強内容がまた増えるのか。しかも私の全く知らない分野。…………地味にストレスが増えていく。