「あとでダンスレッスンのお相手をお願いね。頃合いを見て呼びに行きますから逃げないように」
「はいはい」
 お茶を終えて図書室を出ていくインディゴ様に向かって、ウィスタリアさんが言いました。ほぼ決定事項のような『お願い』、インディゴ様に拒否権はないようです。インディゴ様もわかっているのか、後手に手をヒラヒラさせながら出て行きました。お忙しいのに私の練習相手させられて本当に申し訳ないんですが、同じく私にも拒否権ないので、せめて心の中で盛大に謝っておきましょう。
 さて。次こそ解放——といかないことは今までの流れで悟っています。
「次のお勉強はなんですか?」
 どうせ晩御飯まで時間があるからそれまで勉強なんでしょ、という不貞腐れた気持ちは腹に収めつつ聞いてみました。心の準備は大事ですので。
「本日の、机に向かっての勉強はおしまいです。次は立ち居振る舞いの練習をしましょう」
「はい」
「場所を変えますので、ついてきてください」
「わかりました」
 優雅な仕草はレディの基本だもんね。座学じゃないだけマシとしよう。しかし、優雅とは対極に生きてきたから(前世含め)、叱咤激励という名の指導の嵐だろうことが想像つくわ。
 図書室を出る前、ウィスタリアさんが何冊か本を見繕っていました。
「その本はどうするんですか?」
「あとで必要になりますので」
「?」
 このあと必要になるって……基本のマナー本かなにかかな。まあいいけど。
 ふう。頑張るしかないか。
 諦め含んだため息を飲み込み、私はウィスタリアさんに続いて図書室を出ました。